読書人の雑誌『本』
『フルーツひとつばなし―おいしい果実たちの「秘密」』著:田中修
人間もまた、すごい!

果物を実らせる果樹や、イチゴ、メロン、スイカなどの果実的野菜といわれる植物たちの生き方に目を向けた『フルーツひとつばなし―おいしい果実たちの「秘密」』を、講談社現代新書の一冊として出版していただきました。この書は、からだが喜ぶフルーツの話で、果物の種類や品種、おいしさの秘密、健康への貢献などを紹介したものです。

近年、百貨店、スーパーマーケットの果物売り場や果物屋さんには、季節を問わず、多くの種類の色とりどりのおいしそうな果物が並べられています。私たちは、「おいしい」「甘い」「酸味がある」「ジューシー」「さわやか」などと言いながら、これらを食します。

これらのおいしい果物は、「自然の恵みの中でつくられる」といわれます。緑の葉っぱに照りつける明るい「太陽の光」、根を張りめぐらせる良質の「土壌」、その土壌を適度に潤してくれる「水」などが、自然の恵みです。その中で、果樹や果実的野菜などは、おいしい果物をつくる力を発揮します。

しかし、もう一歩踏み込んで、「これらのおいしい果物の素材は、何か」と考えてください。肥料として養分は必要です。しかし、基本的な素材は、根から吸収する「水」と、空気中にある「二酸化炭素」、そして、葉に当たる「太陽の光」です。それらを使って、「光合成」という反応が葉っぱで行われ、果樹や果実的野菜がおいしい果物をつくっているのです。

「人間の科学は、すごく発展している」と、私たちは誇りにしています。ですから、「人間がその気になれば、植物が行うこの反応ぐらいは真似できる」と思われがちです。ところが、「どんなにお金を使ってもいいから、水と二酸化炭素と太陽の光を使って、果物をつくりだす工場を建ててください」と誰に頼んでも、現在、その頼みをかなえられる人はいません。どんな機械を並べ、どんな装置をつくればいいのかがわからないのです。

結局、私たちは、果物を手に入れるためには、果樹や果実的野菜に頼らざるを得ないのです。私たち人間は、植物がしている反応を真似することができないのです。つまり、現在の科学は、一枚の葉っぱにも及んでいないのです。私たちは、植物たちの前で謙虚になって、植物たちから多くのことを学ばなければなりません。

といっても、これらの植物がおいしい果物をつくるためには、自然の恵みや、植物たちがもつ力だけでは足りません。もう一つ大切なものがあります。それは、果物を実らせる植物たちの力を十分に引き出し存分に発揮させる、「私たち人間の力」です。

それぞれの果物には、多種多様な品種があり、私たちの味覚を潤してくれます。それらの品種が、私たちの嗜好を満たしてくれています。これらの品種を生み出してきたのは、私たち人間の力です。

 
◆内容紹介
単に空腹を満たす食べ物としてだけでなく、健康を守るふしぎな力を宿しているフルーツ。しかし、現代人の多くは、その効用や魅力については無知である。本書は、何気なく口にしているフルーツの品種、効用、果実生成のしくみ、品種改良など広範な知識を網羅した、現代人のための『フルーツの教科書』というべき作品。 「ミスター植物学」として知られる田中修・甲南大教授が、フルーツの面白知識を軽妙な文章で巧みに解説する。