江戸川乱歩賞受賞作『襲名犯』著:竹吉優輔
八万三千十人の恋人と私

拙著、『襲名犯』が、江戸川乱歩賞を受賞した。応募三回目。一回目では一次通過、二回目で二次通過、今回は三回目で最終選考に残れば御の字だと思っていたが、有り難いことに受賞することができた。

志が低いと思われるかもしれないが、私にしてみればホップ・ステップ・ジャンプの予定が、ホップ・ステップ・大気圏とばかりの驚異的な跳躍を遂げてしまった気分だ。このまま宇宙の塵と化してしまわないよう、次作の構想を練る日々である。

自己紹介をさせていただこう。
私は現在、三十二歳。茨城の片田舎でのんびりと暮らしている。尊敬する人物はフレディ・マーキュリーとチャップリン。好きな小説は多すぎて書けない。職業は・・・・・・まだ言い慣れないが、小説家である。同時に、図書館司書でもある。今回の作品は、図書館を舞台とした。

自分で書いておいて言うのも変な話だが、作中に「市役所は現場をわかっていない」というニュアンスの台詞が登場する。公僕の端くれとしては非常にマズイ台詞である。受賞が決まった後、市役所で市長にお褒めの言葉をいただいたが、私は二十回ぐらい「市役所批判が出てきますが、あくまでフィクションです!」と言い続けた。

広報誌にも取り上げていただき、図書館利用者の方から声をかけてもらう機会が増えた。
「作家先生!」と言われて照れ笑い。
「税収に貢献して立派だ」と言われ、すみません、住んでるのは別の市ですと思ったり、「絶対借りるよ! あ、ごめん。次の作品は買う」と言われて苦笑いしたり、そんな形で利用者の方と触れ合う機会が増え、本当に嬉しい日々である。

しかし、不安もある。猟奇殺人の話を書いた人間が、子供達に読み聞かせをしているのである。私が親御さんの立場なら百本くらいクレームの電話を入れたい。

ただ、読み聞かせは最高に楽しい。ペラリとページをめくった際に、パッと輝く笑顔。あんなに楽しいものはなかなかない。

職場の環境にも恵まれている。今まで仕事でミスする度に「もし賞金取ったら百万あげるから許してください」と言えば、同僚達は哀れみの目で見た上で許してくれる。

実際、取ってしまった現在、一斉に請求が来て、負債は三億を超えていた。とりあえず、直木賞を取ったら払うと言い続ける毎日である。

 
◆内容紹介
十四年前、関東の地方都市で起きた連続猟奇殺人事件。ルイス・キャロルの詩を下敷きにしたかのような犯行から「ブージャム」と呼ばれた犯人は、六人を殺害した後、逮捕される。容姿端麗、取り調べにも多くを語らず、男を英雄視する熱狂的な信奉者も生まれるが、ついに死刑が執行された。
そしていま、第二の事件が始まる。小指を切り取られた女性の惨殺体。「ブージャム」を名乗る血塗られた落書き。十四年前の最後の被害者、南條信の双子の弟、南條仁のもとへ「襲名犯」からのメッセージが届けられる……。惨劇はなぜ繰り返されるのか? 現在と過去を結ぶ事件の真相とは? 第59回江戸川乱歩賞受賞作!