ブルーバックス
『単純な脳、複雑な「私」』 池谷裕二=著 第4回
安月給のほうが楽しい!?
脳研究が明らかにした複雑な心理 本文より抜粋

メニューページはこちら
第3回はこちらをご覧ください

安月給のほうが楽しい!?
脳研究が明らかにした複雑な心理

お金をたくさんもらうと仕事は楽しくなくなる?

 脳は体を介して自分がどれほどの状況にあるのか把握する。こんな不思議な脳の作用は、かつて次のような実験から発見された。

 どんな実験かというと、単純作業をしてもらうだけ。ごくつまらない仕事を、みんなにやってもらうんだ。でも、仕事は仕事だから、後で報酬を支払う。バイト代をあげましょうと。ただし、バイト代は均一ではない。グループAには高めに支払う。たとえば時給2000円。グループBには100円しか払わない。

 さて、その後、アンケートをとる。「あの作業はおもしろかったですか」と聞く。そんな実験から意外な心理作用が見つかってきた。同じ単純作業をしても、報酬額によって、作業そのもののおもしろさが違うんだ。どっちの方がおもしろかったと感じただろう? グループAかなBかな? そして、なぜそんな差が生まれるんだろう?

──Aじゃないでしょうか。お金をたくさんもらえれば、うれしい感情が残りそうだし、それだけ大変な仕事をやりとげたという達成感も得られそう。ということで、おもしろかったという感想を持っちゃう。

 そうだよね。普通に考えると、そんな結論になりそうだよね。ところがね、結果は逆なの。グループAは単調な仕事を「やはり楽しくなかった」と感じて、グループBは単調だったけれど「意外と楽しかった」と感じるんだ。

「体」が重要だという話をしてきたけれど、この実験結果も、おそらく体に関係がある。

 グループAの場合、自分たちが働いているのはカネのためである。「いいカネをもらえるから、おもしろくもない作業でもやっているんだよ」と自分自身が納得できるよね。でも、グループBはおもしろくもない作業をわずか100円の報酬でやっている。これでは納得がいかない。にもかかわらず「自分が働いている」というのは事実だ。だって作業しちゃっているんだから、もはや否定できない事実でしょ。ポイントは、体は変更できないけど心は変更できるという点。

感情を行動に合わせる

 自分の感情と身体的事実(行動)が矛盾していると、僕らはすごく不快。だから、感情と行動は一致させたいわけ。心身が乖離した状態からいち早く抜け出したい。

 つまり、なんとかして感情と行動を一致させたいのだけど、さて、これを一致させるにはどうしたらいい? ふたつにひとつしかないよね。つまり、行動を変えて感情と一致させるか、感情を変えて行動に合わせるか。