官々愕々 東電を今こそ破綻処理せよ

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最近の安倍政権は、胸を張って堂々と偽りのロジックを述べ立てる傾向が強まっている。テーマは様々だが、彼らの騙しのテクニックには、いつも人々を恐怖に陥れる脅しの手口が組み込まれている。そして、マスコミをも錯覚に陥れる周到な演出が加えられる。その結果、人々は、自分たちのためだと誤信して、間違った政策を承認し、時には自らそれを求めたりしてしまう。

典型例が、東京電力福島第一原子力発電所の高濃度汚染水の海洋流出問題への対応だ。8月7日、安倍総理は、「東京電力に任せるのではなく、国としてしっかりと対策を講じていく」と胸を張った。

実はその前に伏線として、政府による「危機」演出があった。汚染水が海洋に流出していることは前からわかっていたのに、政府はそれを参議院選挙後になって、「汚染水大量流出」という形で公表した。「天下の一大事だ」ということで、マスコミは、「政府が前に出ろ!」と大合唱した。安倍総理は、それを利用して「前に出る」と言ったのだ。しかし、真の狙いは国費投入だ。8月末の予算要求締め切り前にその方針を確定したかったのだ。

マスコミはそれを理解せず、無邪気に「遅すぎた」と論評し、政府の方針を認めてしまう。政府の演出にはめられた瞬間だった。

そもそも、東電は事実上破綻している。破綻企業の責任負担の大原則から見れば、安倍総理の言ったことは理不尽の極みだ。

第一に責任を負うべき東電の経営者が責任を取っていない。本来は全員クビのはずだ。第二に、株主。株式は100%減資で紙切れにすべきだ。第三に、社債を除く約4兆円の銀行からの借金は大半をカットすべきだ。それなのに実際は、国から東電への出資や融資のかなりの部分が、銀行への借金返済に充てられている。

本来は、これらの者が責任を取った後で、なお不足すれば、電力需要者に料金値上げで、さらに一般国民に税金で負担を要請するというのが正しい順序だ。しかし、いま政府はこの1番から3番の責任者を飛ばして、本来責任のない消費者・国民にいきなり負担を求めている。

政府は、自らを正当化するために、脅しとすり替えのレトリックを連発してマスコミを騙している。

具体的にはまず、国は、「東電は破綻していない」と言い張る。しかし、東電は事故処理の費用が払えない。払うべきものを払えないことを破綻というのだから、国の論理こそ「破綻」している。すると、出てくる理屈が、「破綻すると事故処理ができなくなる」という脅しだ。しかし、破綻させてもさせなくても、不足分を国が負担して東電が事故処理するのは同じだ。

次の脅しは、「破綻させると、国は1兆円の出資を失い、国民が損をする」。1年前の政府による東電への1兆円出資のことだが、破綻処理すれば、銀行債権4兆円弱は殆ど棒引きにできる。1兆円の出資を失っても差し引き3兆円近く国民負担が減る。

すると次の脅しが、「被災者の債権もカットされて賠償ができない」だ。それは、別途国が負担する仕組みを作れば済む。純粋に被災者のためなら国民も納得する。いまは、国民の税金で銀行の借金返済が行われている。脅しは続く。「破綻させると銀行が追加融資をしないから、事故処理ができなくなる」。これも嘘だ。支払い能力がない東電に銀行が貸しているのは、将来、税金か料金で穴埋めすることが前提になっているからだ。それなら、国が保証してやれば同じことだ。

破綻させれば、国民は3兆円弱得をする。今こそ破綻処理の決断をするときだ。

『週刊現代』2013年8月31日号より

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