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『エピゲノムと生命』
DNAだけでない「遺伝」のしくみ
太田邦史=著

 ドレスコードだけでなく、普段その人が何を着ているかで、趣味や考え方がある程度推測できます。背広を着ていればサラリーマンやお堅い職業の人、カジュアルな格好なら学生や自由なスタイルの職業の人など、服装がもたらす印象というのはときに重要なはたらきをするものです。

DNAも服を着ている!?

 服装の話が、遺伝子やDNAとどう関係するのかと思われる方もいるでしょう。実は我々の体の設計図であるDNAは「裸」ではありません。「ヒストン」という円盤状のタンパク質がDNAに数珠状に結合し、これが階層的に集合して、「クロマチン構造」や「染色体構造」と呼ばれる「服」を着たような状態になっています。

 そして、その着ている服の状態(どのような飾りがついているか、薄着か厚着かなど)が、所々で異なっています。Tシャツを着ているように比較的薄着の場所では遺伝子のスイッチがオンになり、喪服やコートなどの厚着をしている場所ではオフになっているのです。つまり、DNAの着ている「服」が、ドレスコードのように、一つの意味を持つ「コード(暗号)」を表現しているのです。

 このようないろいろな「服を着た」DNAを持つことにより、裸のDNAしか持たない場合に比べて、我々は非常に複雑な生命のはたらきを行うことができるようになりました。これはDNAという情報の上位の階層に、もう一つの情報を書き込むしくみができた、ということです。

 このしくみの優れているところは、服装を変えれば印象が変わるように、同じDNAでもいろいろな使い方ができることです。そしてその使い方がずっと記憶される点です。つまり、「DNAだけによらない遺伝のしくみ」ができたことになります。

 このような「DNAだけによらない遺伝のしくみ」を取り扱う分野のことを「エピジェネティクス」と言います。本書では、この「エピジェネティクスの世界」を紹介したいと思います。

 本書では、専門的な話ばかりで飽きてしまわないように、エピソードや道草のようなことを書くようにしました。授業でも同じような雑談をするのですが、学生のコメントなどを見ると、雑談だけ覚えている人もいるようです。もちろん本書でも、そんな読み方をしていただいて構いません。
 

著者 太田邦史(おおた・くにひろ)
一九六二年東京生まれ。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。理学博士。一九九一年~二〇〇六年、理化学研究所研究員、二〇〇七年から東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は分子生物学、遺伝学、構成生物学。二〇〇六年、Invitrogen-Nature Biotechnology賞(ベンチャー部門)、二〇〇七年、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)受賞。著書に、『自己変革するDNA』(みすず書房)など。
 
『エピゲノムと生命』
DNAだけでない「遺伝」のしくみ

太田邦史=著

発行年月日:2013/08/20
ページ数:280
シリーズ通巻番号:B1829

定価(税込):1029円
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)