中国
"古代型のアジア秩序"は復活するのか!?
8月15日に再認識したマイケル・グリーン「東アジア覇権論」の慧眼

〔PHOTO〕gettyimages

もう10年近く前になるが、マイケル・グリーン東アジア担当米大統領特別補佐官(肩書きは当時)のインタビューを読んだことがあった。小泉純一郎首相の靖国参拝を巡って日中関係が「政熱経冷」と言われた時代で、日中関係について、グリーン氏は次のように喝破していた。

「日中関係の悪化は、単に日本の首相が靖国神社を参拝するとかいう単純な問題ではない。東アジアは古代以来、中国を中心として成り立ってきた。ところが日本の明治維新と中国の清朝の躓きにより、日清戦争で日中の国力が完全に逆転した。その後は、日本>中国の時代が百数十年間続いた。だが、21世紀に入って中国が台頭してきて、両国の国力は再び拮抗する時代を迎えた。

そんな中、中国からすれば、台頭する障害となる日本が、目の上のタンコブだ。一方の日本からすれば、中国のことを、かつて百数十年間、感じたことのない脅威と映る。そのため、これは東アジア地域の覇権論の問題であって、日本の首相が靖国神社を参拝しようがしまいが、当分の間、日中関係は好転しないだろう」

10年ほど前は、私も含めて多くの日中の人々が、小泉首相の靖国参拝問題によって日中関係は悪化している、だから首相を始めとする有力閣僚が靖国神社を参拝することさえなければ、日中関係は良好な状態を保てるのだと考えていた。

ところがグリーン補佐官は、日中間の問題はもっと根本的なところにあるので、どのみち短期にはよくならないと見ていたのである。グリーン氏は当時、東アジア担当の大統領特別補佐官だったので、これはアメリカの見方と言っても過言ではないだろう。

今年の8月15日を迎えるにあたって、このグリーン氏の慧眼を再認識した。

習近平新時代には、新たな認識が必要

終戦記念日の日、閣僚で靖国神社を訪問したのは、あの硫黄島の戦いの指揮官・栗林忠道中将の孫の新藤義孝総務相、古屋圭司国家公安委員長、稲田朋美行政改革相の3人だった。

中国の胡錦濤時代、日中間には次のような「暗黙の了解」があった。それは、首相・外相・官房長官の3主要閣僚が靖国神社を参拝しなければ、政治問題にしないということだった。この「暗黙の了解」は、日本の小泉後、すなわち安倍、福田、麻生、鳩山、菅、野田の6代の政権にわたって引き継がれた。

ところが、今年の4月になって、麻生太郎副総理兼財務相が、春の例大祭に合わせて靖国神社を参拝した。これに対し、中国は強く反発した。日本からすれば、麻生氏は「暗黙の了解」の3閣僚に含まれないのに、なぜ中国は目くじらを立てるのかと訝しがったものだ。私は中国が、「主要閣僚には当然、副総理も含まれる」と解釈しているのだろうと想像した。

そこで4月末に訪中した際、この麻生副総理の靖国参拝問題を、中国側の旧知の外交官僚にぶつけてみた。すると彼は、次のように述べたのだった。

「その『暗黙の了解』はそもそも、胡錦濤前主席が了解していたものだ。わが国はこの3月より、習近平新時代を迎えた。新たな時代には新たな認識が必要だ」

その後、突っ込んで聞くと、習近平新主席は、日中間でそのような「暗黙の了解」があること自体、最近まで知らなかったそうだ。そして「そのような"了解"は日本側の傲慢である」として、大変ご立腹だったという。つまりは、「今後は日本の閣僚が一人でも靖国神社を参拝したら、わが国は厳重に抗議する」と言われたのだった。

実際、8月15日に中国外交部は、劉振民副外相が、木寺昌人日本大使を外交部に呼び、厳重抗議に及んだ。その3日前の8月12日の日中平和友好条約締結35周年記念日には、何のお呼びもかからなかったにもかかわらずである。

終戦記念日には、中国国営新華社通信も、日本を非難する記事を打電し続けた。一部記事のタイトルを拾ってみると、以下の通りだ。

●外交部スポークスマンが日本に猛烈抗議
●日本の軍国主義の陰影はいまだ散らず
●安倍が敗戦の日に形を変えて"拝鬼"(鬼っ子の日本軍人を拝むの意)
●日本は歴史の妄想を放棄せねば、正しい道に進めない
●オリバー・ストーン監督も「日本は真摯に反省すべきだ」と発言
●日本が歴史の罪悪を精算しなければ、最終的に損をするのは日本人だ
●英国の著名作家も「安倍政権の出すぎた言動がアジア太平洋地域の平和を乱す脅威になっている」と発言
●日本は実際の言動によって、アジアの被害者と国際社会の信を取り戻せ
●日本の投降前に主戦派はクーデターを決起しようとしていた

本当に、喧しいほどの轟々たる日本非難が並んだのである。胡錦濤時代にもこうした日本批判はあったが、これほど「身もふたもなく」という感じではなかった。

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