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インサイドレポート
名門企業2度目の危機、その理由
カネボウ美白回収「七つの会議」

 自社商品に致命的な欠陥が見つかる—最大の窮地に陥った時、企業には様々な思惑が入り乱れ、社員は迷走する。カネボウ美白回収騒動の裏側では、ドラマ顔負けの「ギリギリの攻防」が起きていた。

あの時気づいていれば

 都内のドラッグストアを覗くと、化粧品コーナーの一画だけ商品がなく、「お詫びと回収」と書かれた紙が貼られている。美白化粧品が並べられたその棚には、カネボウの商品は見当たらない。自主回収によって撤去されたためだ。

「カネボウさんとのつきあいは長いですけど……。対応が後手後手に回った印象がありますよね」

 こう語るのは、そのドラッグストアの店主だ。

「ウチも、今回問題になった美白化粧品でお客さんから『肌がまだらになる』と相談をされたことがありました。ところが、それを営業担当者に伝えても『それでは、使用をやめるようお伝えください』と言うだけでした。『添付の説明書には、肌に合わなければ使用を中止してください、と書いてあります』と……」

 広がり続けるカネボウの美白化粧水回収騒動。カネボウによると、同社の美白化粧品を使って、顔、首、腕などの皮膚がまだらに白くなる「白斑症状」が出たと申告した人は約8600人で、同社が症状を確認したのは約4000人。また、同社に寄せられた問い合わせは20万件を超えている(8月1日現在・以下同)。

 カネボウは7月4日に、独自開発した美白成分「ロドデノール」を含む8ブランド54製品の自主回収を開始。回収総数は100万個を超えたが、まだ家庭内在庫が残る。また、親会社の花王は、通期の売上高が100億円減、営業利益も回収費用などで60億円減少する見込みを発表している。

 カネボウと花王が受けた打撃は大きいが、問題は白斑の被害相談が実は'11年から、数が少ないとはいえ寄せられていたことだ。2年前から少しずつ燻っていた問題が、ある日突然、爆発する—。

 その状況は、NHKで放送されたドラマ『七つの会議』(池井戸潤原作)に不思議なほど似ている。

 東山紀之演じるサラリーマンが勤務する中堅電機メーカーは、利益追求のために粗悪なネジを使った製品を納入していたが、内部告発でそれが発覚する。ここはカネボウとは異なるが、ドラマでは会社ぐるみで不正を隠蔽しようとする様が描かれる。

 舞台が「子会社」というところはカネボウと同じだ。良心の呵責に耐えつつ製造データを改ざんし、検査対象のネジをすべてすり替え、親会社の調査を乗り切ろうとするサラリーマンたちの姿は、切なくもリアルで、現実社会の一断面をすくい取っている。

 主人公がガードレールの繋ぎ目のネジを見て思わず吐き気をもよおすシーンがある。自分のやっていることが間違っていることは、他ならぬ自分自身がわかっている。しかし、隠蔽をし続けないと、会社の存続すら危ぶまれる。

 その狭間に立たされる登場人物たちの苦悩が、視聴者からの共感を呼んでいるわけだが、同じような立場に置かれ苦悩し、逡巡したカネボウの社員たちももちろん、いた。

 問題発覚から、いやそれ以前から、カネボウの社内でいったい何が起こっていたのか。消費者から最初の相談が店頭に寄せられたのは、'11年の夏だった。

「肌がまだらに白くなってしまったのですが、そちらの化粧品が原因ではないでしょうか」

 クレームというよりは、あくまで心配事を相談する口調だったという。

 報道では、当時相談を受けた店頭の担当者が「黙殺」したかの印象が強いが、現実は少し違うようだ。カネボウの社員が明かす。

「お客様の苦情に対応するマニュアルは徹底されており、黙殺するなんてことはありえない。親身に話を聞いたはずです。

 言い訳にしかならないことはわかっていますが、お互いにとって不幸だったのは、お客様がウチの商品を名指しして苦情を言われたわけではなかったことです。ご本人は医師の診断書もお持ちで、『体質的なものだと言われた』というご発言もあった。そのため担当者はご病気だと判断し、お客様からのクレームを共有する社内システムに『フォローの必要のない相談』と入力してしまった。

 いま振り返って、あの時気づいていれば、と言うのは簡単なことですし、社内にもそう思っている人間はいる。ただ、責任をすべてその担当者に被せるには、その後に起きたことは、あまりに重い」

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