『太陽 大異変』地球への影響

レビュアー:久保 洋介

 1989年3月13日、カナダのケベック州で大停電が起こった。変電所や発電所が突如破壊され、9時間も停電続いたのだ。被害に遭ったのは、およそ600万人、経済的な損害は100億円を超えた。そして不気味にも同時に全米一帯を覆い尽くすようにオーロラが発生したのである。

 当時、冷戦の真っ只中であったため、多くの人々は核攻撃が始まったと心配したそうだ。しかし、この大停電をもたらした真犯人は太陽だったことが後々判明する。太陽面での爆発(太陽フレア)によって発生した大量のプラズマが地球に到来し、変電所の許容範囲を超える大電流が流れたため、停電が起こったのである。この動画(出典:NASA/ Walt Feimer)を観てもらえれば、なんとなく、とてつもないことが起こったことが分かるだろう。

 最近、1989年に起こったフレアの数1000倍もの規模のスーパーフレアが太陽で起こる可能性が著者含む日本の研究者たちによって示唆された(というか論文が発表されたのは2013年6月なので本稿の2ヶ月前)。万が一、太陽でスーパーフレアが起きた場合、想像を絶する量のプラズマやX線放射が地球に到達することになり、多くの人々が被爆し、地球全体で通信障害や大停電が発生してしまうだろう。そうなれば世界中の原子力発電所の電源が喪失され、制御できなくなってしまうという恐ろしい事態に発展しかねない。

 理論的には1000年に一度くらいの頻度でこのスーパーフレアが発生するといわれており、実際に屋久杉の年輪を調べる研究者らは、約1300年前の年輪にスーパーフレアの影響らしき跡を見つけている。スーパーフレアは、過去の生物大量絶滅をもたらした容疑者候補としても考えられており、古生物学者たちが因果関係を調べ始めたところだ。

 ともあれ、本書は警告の書などではなく、太陽研究の中でもこれまであまり焦点が浴びてこなかった太陽フレアの仕組みをしっかり説明してくれる良書である。著者は宇宙物理学者で、京大理学研究科附属天文台長の柴田一成氏。前著『太陽の科学』は、本好きならビビっとくるであろう『渋滞学』『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』『チェンジング・ブルー』などと同じく、講談社科学出版賞を受賞しており、最新の研究をバランス良く分かりやすく説明してくれる宇宙物理学者である。なお、本書では太陽フレアの解説に留まらず、磁気に基づいた宇宙理論を展開しており、アインシュタインの一般相対性理論など重力に基づく宇宙論に飽きてきたサイエンスファンにもオススメできる内容である。

 もちろん、近年注目を集めている黒点に関しても一章割いて説明し、そのメカニズムから最新の動向を解説してくれている。近年、徐々に話題になりつつある黒点数の低下にも触れている。現在の太陽では黒点数が少ない時期が長く続いており、地球寒冷化が心配されているのだ。もし本当に寒冷化が進むのであれば、マウンダー極小期(1640~1710年ごろ)と同じく、農作物の不作が続いたり、感染症が拡大したりする可能性があり、温暖化対策以上の国際政治経済問題に発展するだろう。