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第2部 「神の教え」を信じますか ノーベル賞・山中教授の「死生観」

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第2部 「神の教え」を信じますか
ノーベル賞・山中教授の「死生観」

「山中(伸弥)先生がiPS細胞でノーベル賞を取ってから、学生から『これで人は死ななくなるんですか』とか『不老不死の研究ですか』とか言われることがある。

 しかし、細胞レベルでは革新的な成果であっても、総体としての人間そのものの死生観が根底から覆るかといえば、はっきり言って、そうではない」

 と、ある京都大学関係者は話す。iPS細胞は万能細胞で、あらゆる組織・臓器の細胞に成長することができるため、再生医療での応用が期待されている。

「体中の臓器をiPS細胞で作って、どんどん新しくすれば永遠に生きられるのでは、という人もいるでしょうが、たとえば脳は非常に難しい。脳細胞を作ることはできても、脳細胞同士の結びつき方は、生まれてから現在までのその人の経験した刺激によって変わります。細胞だけ脳内にポンと置いても、同じネットワークが作られるとは限らないのです。

 そんな調子で脳を置き換えても、記憶が受け継がれるとは限らないし、人格だって変わってしまうでしょう。同じ個性を持った人間を永遠に生かし続けることは、現在のところできないと言っていい」

 しかも、死生観、生命倫理の問題に関しては、山中教授は「あえて深入りしないようにしている」と、この関係者は話す。

「iPS細胞は、皮膚の細胞からでも作れます。

 一方、その前に研究が盛んだった万能細胞のES細胞は、受精卵を壊して作るものだったんです。受精卵は、自然に分化・成長すれば赤ちゃんになるはずのもの。命を壊して命を作るわけで、倫理的にも大きな問題になった。世界中で政治・宗教を巻き込んだ論争になり、研究にも規制がかけられた。

 山中先生自身は、やはり命のもとである受精卵を壊すことにためらいがあった。それにお父さまを亡くされた経験から、余計なところで立ち止まらずに、早く研究成果を世に出して、病気の人々を救いたいと考えた。皮膚からでもできるiPS細胞は、まさにその思いに沿ったものです。

 政治家たちも推進に前向きで、予算もつくし、臨床研究もあっという間に始まりました」