危機的な法科大学院軸の法曹養成制度
試験合格率低迷、大学院志願者激減、弁護士の就職難……[司法]

法科大学院の募集停止を発表する島根大学の小林祥泰学長(中央)=松江市の島根大学で6月17日

 司法試験合格率の低迷、法科大学院志願者の減少、新人弁護士の就職難……。2004年にスタートした法科大学院制度を軸とする「新しい法曹養成制度」が危機にひんしている。政府の有識者会議「法曹養成制度検討会議」は昨年8月から、深刻な状況を打開するための制度の見直しを検討してきたが、抜本的な改革案を示せないまま、今年6月に議論を終結。多くの課題が今後設置される「新しい検討体制」に先送りされ、若い法曹志願者らを落胆させている。

 政府は1999年、「21世紀の司法が果たすべき役割を明らかにし、法曹の在り方と機能の充実強化について議論する」ことを目的に有識者による司法制度改革審議会を設置。審議会は約2年間の議論を経て、01年に「司法制度を支える法曹の在り方」の方向性も含めた意見書をまとめた。

 意見書では、旧司法試験のような「点」による法曹資格者の選抜ではなく、法学教育・司法試験・司法修習を連携させた「プロセス」としての養成制度の導入を提言。プロセスの中核と位置付ける法科大学院の整備と、その教育内容を踏まえた新しい司法試験への移行を求めた。

 また、質だけではなく、量的にも豊かな法曹の確保が必要と指摘。法曹人口の大幅な増加を提言し、「2010年ごろには、新司法試験の年間合格者数3000人の達成を目指すべき」と具体的な方針を掲げた。政府は02年、閣議でこの方針を数値目標として決定した。

 司法制度改革審議会の意見書を踏まえ、法科大学院は04年4月に68校が参加してスタート。翌年度には74校に増えた。さらに06年からは、合格率が2~3%と低く受験技術に偏重しているとの批判もあった旧司法試験に代わり、幅広い視野を持った法律家の養成を目的とした法科大学院での教育を前提とした新司法試験が始まった。

 しかし、制度設計当初、法科大学院修了者の「7~8割」と想定されていた新司法試験の合格率は初年から48・3%にとどまり、以後も年々低下。09年以降は20%台に落ち込んでいる。また、法科大学院間の合格率の格差も拡大した。昨年の試験でも、受験者の6割近くが合格した学校があった一方で、全体の約4分の1の学校は合格率が1割に満たない状態になっている。

 年間合格者数は初年(06年)の約1000人から一時的に増えて08年には約2000人に達したものの、以後は横ばい状態。政府目標の3000人に遠く及んでいない。それでも年間合格者数が約2倍に増加したため、大半が選ぶ弁護士は急増したが、弁護士の職域拡大が進んでいないため、法律事務所に就職できない新人弁護士が続出している。

 日本弁護士連合会は、新しい法曹養成制度導入後、就職できない新人弁護士の目安となる「弁護士未登録者数」の割合が年々増え続け、昨年は26・3%に達したとしている。せっかく多くの時間とお金をかけて法曹資格を得ても、先輩弁護士から実務指導を受けられる法律事務所に就職できず、当面の登録を見送るケースが増えているとみられている。

 このように、司法試験合格率の低迷に加えて、法律家になっても就職がままならない厳しい状況から、法科大学院の志願者数は04年度当初の約7万3000人から、今年度は約1万4000人にまで大きく落ち込んでいる。

 その結果、新規入学者の募集停止を発表する法科大学院も既に8校に達している。今年度は、募集を続ける全法科大学院の9割以上が入学者の定員割れを起こし、約6割の学校で定員の半数を満たせなかった。

 新制度設計時の理念からかい離していく想定外の事態に、法務省と文部科学省は10年、問題点を洗い出すため、法曹三者などで構成する「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」を設置。11年からは、有識者会議「法曹の養成に関するフォーラム」が議論を引き継ぎ、課題を整理した。12年8月には、さらにフォーラムを受け継ぐ法曹養成制度検討会議が発足。フォーラムの13人の委員に、自治体、医療界、福祉施設の関係者ら4人が加わり、改革案を検討してきた。

合格者3000人目標を撤回

 検討会議は今年6月26日までに16回の議論を行い、最終提言を取りまとめた。提言では、司法試験の年間合格者数目標の3000人の撤回を表明。課題の深刻な法科大学院の統廃合を促すための強制的な措置(法的措置)の導入▽司法試験の受験回数制限を「5年以内に3回」から「5年以内に5回」に緩和▽短答式試験の科目数を削減▽司法試験合格後に司法研修所などで1年間学ぶ司法修習生のアルバイトを認め、経済的な負担を軽減する――などとしたが、マイナーチェンジの感は否めなかった。

 一方、新たな法曹人口の数値目標▽法科大学院に対する強制的な措置の内容▽法科大学院を経なくても司法試験を受験できるため、「抜け道」になっているとの批判もある予備試験の見直し▽弁護士の職域拡大策――といった重要な課題については、「新たな検討体制」に先送りすることとし、多くのテーマについて「2年以内」に結論を出すよう求めた。

 最終提言が大筋でまとまった6月19日の会議終了後に記者団の取材に応じた佐々木毅・座長(元学習院大教授)は「課題を整理すること自体に時間を要するほど事柄が錯綜していた」と釈明。「確かに次の検討組織に委ねなければならない課題もたくさん出てきた。しかし、あえて申し上げれば、誰がここまで事態を放置したのか」と恨み節も漏らした。

 政府は7月16日に開催した関係閣僚会議で「検討会議」の最終提言を了承した。今後、新しい検討体制には、早急に抜本的な改革案を示すことが求められる。そのためには、関係省庁の縦割りの弊害をなくし、相互に責任を押しつけ合うことのないよう、強力なリーダーシップを持ったトップが必要だ。また、法曹三者や法科大学院の指導者だけでなく、法科大学院の元学生や法律事務所に就職できなかった新人弁護士、司法修習生など「新しい法曹養成制度」の経験者の切実な声をしっかりと拾い上げなければならない。

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