「麻生氏発言で韓国が米ユダヤ・ロビイストと提携する動き」、「内閣法制局長官に外務省出身の小松一郎・駐仏大使を起用」
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」夏の特別号 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.42「麻生発言と反知性主義」
 ■分析メモ No.43「なぜロシアは、スノーデン元CIA職員の一時亡命を認めたのか?」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.53 『最新脳科学が教える 高校生の勉強法』
 ■読書ノート No.54 『人類史のなかの定住革命』
 ■読書ノート No.55 『昭和の天一坊 伊東ハンニ』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程

くにまるジャパン発言録

◆深読みジャパン

伊藤: 東京新聞一面から。「麻生氏のナチス発言 波紋拡大」。
麻生太郎副総理兼財務大臣が改憲に絡み戦前ドイツのナチスを引き合いに「あの手口を学んだらどうか」と発言したことに対し、与党の幹部から苦言や注文が相次ぎました。麻生氏は発言を撤回しましたが、海外も敏感に反応しており、クギを刺す必要があると判断したとみられます。

麻生氏は発言撤回にあたって、「私の真意と異なり誤解を招いた」「ナチスおよびワイマール憲法にかかる経緯について、極めて否定的にとらえていることは、私の発言全体から明らかだ」と釈明しました。

自民党の石破茂幹事長は記者団に「ユダヤの方々からの意見もあるようなので、政府として誤解を招くことがないよう、きちんと対応すべきだ」と注文しました。ただ、麻生氏の進退問題に発展する可能性に関しては、菅義偉(すが・よしひで)官房長官が記者会見で「辞任にはあたらない」と明確に否定しました。

邦丸: 麻生副総理のナチス発言。昨日木曜日の「くにまるジャパン」でも政治アナリストの伊藤惇夫さんが、ちょっと考えられないというか、取り上げる必要もないという話もありましたけど。

佐藤: はい。本当に伊藤さんがおっしゃるとおりで、考えられない話なんですよ。

邦丸: うーむ。

佐藤: なにが最大の問題かというと、まず、発言の内容はともかく、これを撤回しているわけでしょ。しかし、謝っていないですよね。

邦丸: 謝っていないですね。

佐藤: 外交の世界でも一般人の世界でも、悪いと思ったら謝る、悪いと思っていなかったら謝らない、ということなんですね。要するに、これは国際社会ではどういうことかというと、「誤解したヤツが悪いんだ。だから謝る必要はない」と言っているわけで、開き直りということなんですよ。

邦丸: 「ナチスおよびワイマール憲法にかかる経緯について、極めて否定的にとらえていることは、私の発言全体から明らかだ」

佐藤: そこのところは、本当にそうなのかどうか、ここの検証を冷静にしないといけないですね。検証材料はある。それは、8月1日の朝日新聞デジタルが「発言の詳細」という形で全文を起こしているわけです。そこをちょっと読むと──。

<僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。 憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。 ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪のなかで決めてほしくない>

──これを普通に読むと、明らかに肯定的に評価しているんですよ。

邦丸: 否定的じゃないですよね。

佐藤: 後半の部分を引用している新聞社と引用していない新聞社があるんですけれど、これは連続した発言ですから、前後を合わせて読まなくてはいけない。「本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね」と、ここのところにおいて、これはナチス憲法のことかと読まれる可能性もある。あるいは、別の読み方もあります。日本の憲法がそういうふうになったらいいと言っていると。

いずれにせよ、この「手口から学ぶ」というのは肯定的なコンテクストだと、通常の日本語の読み方だったらそうなるはずです。しかも、これは英語に訳されていますからね。そうすると、真意が通じないと言ったって、「なに言ってるんだ!」ということになりかねないわけですよ。非常に面倒臭い。

邦丸: 靖国問題にしても、今回、あまりメディアでは騒がれていないですけれど、「各総理も行っておられたんですよ。行けなくなったのはマスコミのせいですよ」と、そこもちょっと引っかかるんですけどね。

佐藤: これも引っかかってくると同時に、今、その辺を溜めているのは韓国なんですよ。韓国が、歴史認識で日本はナチスと一緒だという形で、ここを使ってアメリカのユダヤ・ロビーストと提携していこうとしている。この動きで、8月15日をひとつの焦点としてやってきますよね。

邦丸: 終戦記念日ですか。

佐藤: 終戦記念日です。麻生さんが靖国に対してどういった対応をとるのか。ここのところが非常に重大なカギになってくると思います。・・・・・・

伊藤: 安倍総理は昨日内閣法制局長官に小松一郎・駐仏大使を起用する方針を固めたということで、8日にも決定する見通しです。山本庸幸・内閣法制局長官は退任し、最高裁判事に就くということです。集団的自衛権を巡る憲法解釈見直しの議論を進めるため、従来の政府解釈を堅持する立場だった山本氏を退任させ、解釈見直しに前向きな小松氏を起用することで、体制一新を図るということです。小松氏は外務省出身で、内閣法制局の勤務経験がなく、いずれも内閣法制局長官として前例がないということで、総理主導が色濃くにじんだ人事ということです。

佐藤: 首相主導というよりも、首相が、誰がいちばんいいんだろう、集団的自衛権の問題を突破して憲法改正をするためには法制局長官がカギになります、という話で、おそらくは谷内正太郎・元外務事務次官・現内閣官房参与が、「小松さんがいいですよ」と言ったのではないかというのが、私の憶測であると同時に、そういう情報が複数入ってきていますけどね。だいたいそんなところではないかと思うんですよ。

邦丸: 集団的自衛権、これも憲法改正の問題でもずいぶん出てきていますけれど、ちなみに新しく内閣法制局長官になる小松一郎さん、外務省の国際法局長だった当時に、第1次安倍内閣で設置され、集団的自衛権に関する解釈見直しを提言した有識者会議に、裏方としてかかわっていたと、今日の読売新聞の記事にあります。

佐藤: ええ、そういう人です。私も個人的に比較的よく知っている人です。新聞の報道を見ると、極端に勇ましい人じゃないかと、なんか集団的自衛権というとそういう印象になるんですけれど、必ずしもそんな話ではなくて、たとえば、北朝鮮がミサイルを撃つというとき、日本の護衛艦とアメリカの軍艦がそばにいて、共同でそれをウォッチしているとします。そうしたらミサイルがアメリカの軍艦のほうに飛んできた。そうなっても日本は、そのミサイルを撃てないわけですよね。集団的自衛権がないから。

ただ、インド洋への給油であるとか、中東への自衛隊の派遣であるとか行っているわけで、実際には集団的自衛権を行使しているわけですよ。あまり実態と乖離したことをやってはいけないし、これからサイバー攻撃、それからミサイルがそうとう普及してきているなかで、かつての古い時代の集団的自衛権が憲法で禁止されているということは、これはやはり私も解釈を変えていかなくてはならないと思うんですよね。外務省出身の人間というのは、だいたいそういうふうに見ているでしょう。

内閣法制局長官に外務省出身者が就いたというのは、初めてだと思いますよ。それによって、外務省の力というのが、急速に伸びているわけですよ。今回おもしろいのは、一方において官邸の集団的自衛権の方向を支えるというので頑張っているのも外務省だけれど、麻生さんの発言に関して、「これは撤回だけでなくてすぐに謝罪しろ」と強く言っているのも外務省なんですよね。だから、外務省の力というのが、私が見ていてもびっくりするくらい強くなっていますね。

邦丸: 今、安倍内閣で。

佐藤: はい、安倍内閣になってから。

邦丸: 集団的自衛権に関しての解釈というのは、内閣法制局の幹部の話ということで読売新聞に出ていますけれど、「必要なら、憲法改正をするのが筋であって、解釈見直しは法秩序の崩壊だと見ている」と。ところが、安倍総理がかねて「国民の生命・財産を守るため日米同盟がより効果的に機能することは重要」などとして、行使を可能にするように憲法解釈を見直す必要性を訴えてきた。

佐藤: 今、邦丸さんがおっしゃったのは、ものすごく重要なポイントなんです。というのは、日本の官僚、あるいは法律の専門家のなかで、2つのまったく違った文化が存在するんです。ひとつは、国内法の専門家なんです。今、紹介された「憲法改正を先行させるべきだ。解釈見直しは法秩序を乱す」というのは、国内法専門家の発想なんです。それとは別に、数はうんと小さいんですけど、国際法の専門家たちがいるんです。国際法の専門家というのは、たとえば、条約の条文に書いてあることに違反していても、相手の国が文句を言ってこなければ違反ではないと考えるんです。

それから、国際社会というのは最終的に戦争を禁止できていないんですよね。だから、力によって物事を解決するということを容認しているわけです。だから国際法というのは、その意味ではものすごく乱暴な法律なんですね。だから発想も乱暴になるんです。私は国際法的な発想で仕事をしていたら、いつの間にか東京地検特捜部に捕まっちゃったわけですよね。

(略)

佐藤: ですから、国会中継とか見ていると、法律の話に関して政府の有権的解釈、「これが正しい解釈ですよ、これが定説です」と答弁するのは内閣法制局長官なんです。ところが、日米安保条約ということになったら、その途端、法制局長官は席から下がっちゃうんですよね。それで、外務省国際法局長が来るんです。外務省国際法局長が来て答弁する。条約に関しては、法制局長官は解釈権がないんです。

(略)

邦丸: とすれば、今までの歴代内閣で「法制局というのは手枷足枷だ」と言ってしまった閣僚もいたほどなんですけれど、今後はどうなるんですか。


佐藤: 「行け行けどんどん局」になる! その種の安保の話に関しては。そうすると、先ほどの麻生発言になってくるわけです。ははあ、ワイマール憲法のように憲法は残しながら、全権委任法でやりたいようになんでも変えていくんだなと。法制局の幹部が言っているように、法秩序の崩壊をさせようとしていると、こういうふうに映るんですよ。

(略)

邦丸: 今回、参議院選挙で自民党が大勝して、ねじれも解消しました。自民党にとっての解消ということなんですけど。たとえば、この後の国会のなかでは、自民党内でもこの集団的自衛権の解釈に関しては、いろいろご意見が分かれるようなんですけれど……。

佐藤: ただ、問題は集団的自衛権というのが、実はなし崩しで、もう行使しちゃっているわけですよね。

邦丸: 実質的にですね。

佐藤: 冷静に見てみましょう。インド洋にどうして給油することができるわけですか。それから、アフガニスタンにしてもイラクにしても、どうして自衛隊が居るんですか。そういった国から、日本が直接なにか脅威を受けていますか。タリバンからミサイルが飛んでくることはない。ということは、集団的自衛権の行使なんですよ、どんな理屈をつけても。しかし、今まではそれを法制局長官が堅いんで、変えるのが面倒だから抜け道で「集団的自衛権ではない」と言って集団的自衛権を行使していた。あんまりそういうことをやっていると、国際社会から見て、この人たちは言っていることとやっていることが違うと思われる。

それから、集団的自衛権に関しては、中身についてきちんと議論した場合、かつて柳井俊二さん(元駐米大使)を座長とする有識者懇談会(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)で話された内容というのは、私はそんなに異常な話ではないと思うんですよ。

邦丸: ああ、そうですか。

佐藤: ただ、この件においては異常でなくとも、一回こういう成功体験をしちゃうと、この先いろんなことで解釈を変えていくという、そういう危険性はありますよね。たとえば自衛隊について、自衛隊の人たちの士気をもっと上げたいということで、「一佐・二佐・三佐・一尉・二尉・三尉」という名称を変更しようという。

邦丸: 旧日本軍のように。

佐藤: ええ。大佐・中佐・少佐・大尉・中尉・少尉。一等兵・二等兵は、“兵”ということになるともろ軍隊だからダメだが、“佐”“尉”は大・中・少に変えてもかまわないんじゃないかということになると、こういうときにも法制局にかかるわけですよ。うん、かまわないよというふうになる可能性がありますよね。それで、だんだんいろんな小さいことを変えているうちに、あるとき質的に変わっちゃうんですよね。そのときに歯止めになるというところがなくなってしまうという危険はありますよね。

それはらもうひとつ、条約と国内法の両方を外交官出身者に全部解釈させていくという体制でいいのか。それは、ひとつの役所の出身の人たちに全権を委ねちゃうということは、別の視点が入らないから、そこが非常に心配ですよね。・・・・・・

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