佐藤優のインテリジェンス・レポート「麻生発言と反知性主義」「なぜロシアは、スノーデン元CIA職員の一時亡命を認めたのか?」

佐藤 優 プロフィール

分析メモ No.43「なぜロシアは、スノーデン元CIA職員の一時亡命を認めたのか?」

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【事実関係】
8月1日、ロシア政府は、モスクワ・シェレメーチェボ空港の国際線乗り継ぎ(トランジット)エリアに6月23日から滞在していた元CIA(米中央情報局)職員でNSA(米国家安全保障局)と契約する民間会社の元職員であったエドワード・スノーデン対して、期限1年での亡命を認定したので、同日、同人はロシアに入国した。

【コメント】
1.―(1)
スノーデンの処遇について、ロシアでは見解が分かれていた。第1は、プーチン大統領とクレムリン(大統領府)、外務省、SVR(対外諜報庁)の見解で、スノーデンはロシアに協力したエージェント(スパイ)ではなく、無政府主義的思想を動機に米国の国家機密を暴露したインテリジェンス機関の不満分子に過ぎないので、出来るだけ早くロシアから同人の亡命を受け入る国家に向けて出国させ、この問題に終止符を打とうとした。

プーチンは、「元インテリジェンス・オフィサー(諜報機関員)という言葉は存在しない」と折に触れて述べる。自らの意志で、インテリジェンス機関に就職した者は、職から離れた後も国家のために尽くすというモラルを持つべきであるという信念だ。スノーデンは自らの意志でCIAに加わったが、それを裏切った。KGB(ソ連国家保安委員会)の将校であったプーチンは、米国国家を裏切ったスノーデンに対して忌避反応を示している。

1.―(3)
プーチンは、スノーデンにロシアが亡命を受け入れる条件として「反米活動を行わない」という条件をつけた。スノーデンに受け入れ不能な条件を突きつけることによって、ロシアからの出国を促そうとしたのである。


2.―(1)
スノーデンに対する処遇について、プーチンらとは別の対応を考えたのが、共産党を中心とする野党、さらにFSB(連邦保安庁)、GRU(軍参謀本部諜報総局)などの政府機関だ。スノーデンの亡命を受け入れ、同人が持つNSA、CIAの主に技術面での機密情報を入手することがロシアの国益に適うとこの勢力は考えた。

2.―(4)
8月2日、露国営ラジオ「ロシアの声」の報道が本件をめぐるロシアの政治エリート、国民大衆双方の標準的な見解を伝えている。

<米国の政治家たちは、スノーデン氏を裏切り者と呼び、スノーデン氏がロシアに機密情報を提供する可能性があるとして米国民を脅した。そのため、米国はスノーデン氏の引渡しを求めざるを得なかったのだ。オバマ大統領も米議会も、スノーデン氏が亡命を申請した国々の立場を考慮しようとしていない。

米政府は、スノーデン氏の有罪を事前に確信しているほか、米国では最近、内部告発サイト「ウィキリークス」に大量の機密情報を提供したブラッドリー・マニング陸軍上等兵に有罪判決が言い渡された。世界中の大部分の人々が英雄だと考えている人物を、そのような国に引き渡すことができるだろうか? ロシア上院(連邦会議)国際委員会のウラジーミル・ジャバロフ議長は、次のように語っている。

「人道的観点から見た場合、ロシアの行動は全てが正しい。米国ではスノーデン氏に重い罪が科せられ、死刑判決が言い渡される恐れがある。そのような状況の中で、死刑が求刑されるかもしれない国に人間を引き渡す文明国は、世界中のどこにもない。」・・・・・・