【ネタバレあり】ファンドマネジャーが見た『「風立ちぬ』~堀越二郎とムスカ、そして宮崎駿が求めたピラミッド~
映画『風立ちぬ』のホームページより

 宮崎駿監督の作品はほぼ全部見ています。今回の「風立ちぬ」には一番心を揺るがされました。なんというか、ある種のほろ苦さを感じる大人の映画です。また涙も止まりませんでした。

 ファンドマネジャーの仕事はお客様のお金を預かって、金融資産を増やす仕事です。とてもメカニックな仕事のように思われていますが、実際には株式や債券というのはとても生々しいものであり、人間の営みそのものです。だからこそ私たちの成績は、舞台芸術やアーティストと同じく、「パフォーマンス」と表現されます。

 特に私のように日本株、それも新興企業や中堅企業の投資の仕事を生業にしていると、株の売り買いも人間の行動のむき出しの本音であり、企業の行動も人間の生々しい営み、そのものです。

”原爆の父”オッペンハイマーと重なる姿

 主人公の堀越二郎は実在のゼロ戦の設計者です。ゼロ戦はいうまでもなく戦闘機です。殺人兵器を作っていた人が主人公ですから、これは穏やかではありません。そこにはファンタジーがないんです。ものすごくリアリズムなんです。妖怪も魔法使いも出てきません。

 そして徹底的にその主人公も現実主義者です。徹底的な仕事人。自分の理想的な飛行機を作って飛ばしたいと考えている理想主義者ですが、その夢の実現のためには徹底的な現実主義者に徹しています。

当時、飛行機を飛ばすために、それもふんだんに予算を使えて思い通り飛行機を飛ばすには戦闘機を作るしかなかった。ある意味仕方なく戦闘機を作っていたというのが動機です。戦争で勝ちたいとかという意識は少なかったし、実際には映画の中でも米国や欧米と戦って勝てるわけがないということは冷静に分析をしています。

 理想の飛行機を飛ばすことにのみ集中する。そこが彼の現実であり、その他のことはある意味、重要度の低い風景の一部でしかないというのも二郎の脳内風景のようにみえます。ある意味、原爆の開発者、オッペンハイマーのように職業的興味と飽くなき知的好奇心の発露としてマンハッタン計画を推し進めていった姿に酷似しています。

 しかし堀越二郎の作ったゼロ戦は1機も戻って来ずにそれに乗ったパイロットはたくさん死んでしまったし、オッペンハイマーの作った原爆は何十万人もの人を殺すことになります。専門家の純粋な興味や卓越した才能は、時の政府や軍部によって消費され、略奪されるのです。

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