「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第36回】
父を悲しませてしまったことを思い出し、今も胸が痛む

【第35回】はこちらをご覧ください。

学校でたった一つ好きなのが「時間割」

7月下旬、我が家が最も神経をとがらせる季節がやってきた。なぜかというと、息子の小学校が夏休みに突入したからである。

では、どうして学校が夏休みになると、そんなに家の中がピリピリと殺気立つのか。それは、はっきり言ってしまえば、息子が家の中にずっといることになるからだ。

もちろん他の多くの家庭でも、夏の暑い盛りに毎日、小学生くらいの息子や娘が朝から晩まで家の中にいるとなれば、いろいろと面倒なことや鬱陶しいこともあるだろう。しかし、その子供がASD(自閉症スペクトラム障害)を抱えているとなると、その大変さたるや半端ではない。他の家族が夏休みの1ヵ月余りを乗り切るまでに、一般的な家庭では思いも寄らないようなことが次々と起こってしまうのだ。

以前も述べたように、息子は、何をするにも細かい予定を、それもしばしば分単位のスケジュールを立てて、寸分違わず実行することが大好きだ。そのスケジュールを何らかの理由で崩され、想定通りに物事が進まないと、ヒステリックな状態に陥ってしまい、いきなり怒声や叫び声を上げて周囲に当たり散らすことも珍しくない。その、ひとたび"スイッチ"が入ったときの荒れた振る舞いたるや、まさに「スケジュール魔」と呼ぶにふさわしい。

集団生活になかなか馴染めず、友達とコミュニケーションを取ることが極端に苦手な息子だが、どうやら一つだけ、学校に満足している点があるようだ。それは、授業の時間割があること。誰もが知っているように、よほどのことがない限り、学校では時間割が崩れたり変わったりすることはなく、それが息子の「スケジュールへの執着」を十分に満足させてくれるらしい。

妻によると、数ヵ月前のある日、息子は予定より1時間も早く学校から帰宅したという。しかも、ふくれっ面で「ただいま」も言わず、今にも感情を爆発させそうな雰囲気だ。妻が「どうしたの? 何かあったの?」と聞くと、息子は吐き捨てるように、

「先生が急に用事が入ったとかで、今日の最後の授業がなくなったんだ。なんでこんなことになるのかわからないよ。時間割と違っちゃうじゃないか!」

と言った。妻が「授業がなくなって早く帰れたんだから、よかったじゃない。他の子も喜んでいたんじゃないの?」と聞くと、息子はさらに頬を膨らませて、「他の人は知らないよ。僕は嫌なんだよ。だって、時間割の通りじゃなくなるじゃないか!」と答え、そのまま自室に駆け込んでしまったという。

しかし、夏休みに入るとその時間割がなくなるので、息子は、自分でその日の行動スケジュールを立て、その通りに物事を実行していくことに懸命になる。そして、何らかの事情で予定通りに行かないと、そのたびに不機嫌になったり、パニックになったり、怒り出したりする。

その点はいつもと同じだが、長期休暇の間、そのような感情の起伏に毎日、付き合わされるのは妻だ。おかげで彼女は、息子が小学校に入って以来、夏休みが来るたびに「本当に大変なのよ。あなた、わかってるの?」と僕に不平を漏らす。