サッカー
二宮寿朗「松田直樹の名のもとに広がる命のつながり」

 元サッカー日本代表センターバック、松田直樹が亡くなってから今年8月4日で三回忌を迎える。

 2011年8月2日、当時JFLの松本山雅に所属していた松田は練習中、急性心筋梗塞で倒れ、2日後に帰らぬ人となった。享年34。チームをJ2に引き上げるという目標を追っていた途中の、あまりに悲しい、突然の出来事であった。日本中のサッカーファンがショックを受け、涙した。
 いくら若く、健康なスポーツマンでも襲われてしまう心臓突然死。日本では毎年、約6万人以上が心臓突然死で亡くなっているという。もし身の回りで誰かが倒れてしまったときに、一体、何ができるのか。

周囲と協力することの重要性

 松田の死がきっかけのひとつとなり、心肺蘇生法の胸骨圧迫(心臓マッサージ)、AED(自動体外式除細動器)の使用法を学ぼうとする輪が益々、広がりを見せている。
 7月13日、日産スタジアム内の施設で横浜F・マリノスサポーターの有志が集い、NPO法人大阪ライフサポート協会「PUSHプロジェクト」を招いての講習会が行なわれた。

 講習会は、心臓に見立てたハート型の模型を押して胸骨圧迫を施す実践形式で行なわれる。まずは「大丈夫ですか?」と倒れた人に声をかける。呼吸の具合から心臓の異変を察知したら、近くにいる人に協力を呼びかけ、胸骨圧迫を交代で繰り返しながら救急車の到着を待つという設定で訓練する。
 正しい押し方でなければ模型の音が鳴らない仕組みになっていて、垂直に、(成人に対する場合)5センチほど深く沈み込ませるように押さなければならない。「こんなに強く押さなきゃいけないのか」と参加者から驚きの声も漏れた。

 倒れた人に対して胸骨圧迫するかしないかで成人の場合、救命率は1.7倍に上がるという。心肺蘇生法には人口呼吸、気道確保も含まれているが、一刻も早く胸骨圧迫を始め、AEDを使用して電気ショックを与える必要があるということだ。

 押すペースは1分間におよそ100回が目安と、絶え間なく続けていかなければならないため、体力もいる。胸骨圧迫、AED使用のノウハウを知ることも大切だが、周りとの協力がいかに大事かをこの講習会では気づかされた。
 救急車を呼ぶ人、AEDを探して持ち運ぶ人、胸骨圧迫をする人……協力を求める、その求めに応じるという意識を持つことが大事になってくる。「PUSHプロジェクト」のPUSHには心臓を押すだけではなく、自分の背中を押す、人の背中を押す意味も含まれている。

「PUSHプロジェクト」のプロジェクトリーダーで医師の石見拓氏はこのように語る。
「AEDは今、世界で一番、日本が普及していると言っていいでしょう。そのAEDの普及を通して、心肺蘇生法を知る人も増えてきました。活動をやってきて、その数というのは目に見えて増えている実感があります。ただ、まだまだその輪は広げていかなければなりません」

 今回の講習会に意義を感じるのは、サポーターたちが自ら計画して講習会の実現にこじつけたということ。偉大なプレーヤーである松田の死を契機にして、心肺蘇生法に関心を持ち、自分たちのほうから行動に移す人も出てきているのだ。