母子家庭を通してリアルな人間の姿を描く『Woman』は、名作として長く語り継がれるドラマになるだろう
日本テレビ『Woman』公式HPより

 日本テレビは、「バラエティーに強い局」とのイメージを抱かれがちだが、古くから社会派の局でもある。世界でも類を見ないチャリティー番組『24時間テレビ 愛は地球を救う』の放送は今年で36回を数える。『24時間テレビ』については、「偽善」との指摘も絶えないが、何もしないよりは、はるかに良いと筆者は思い続けている。

 深夜にドキュメンタリーを流すだけで体面を保つようなことをしないのも日テレらしさだろう。古くは『君は明日を掴めるか〜貴くんの4745日〜』(1976年)を午後7時台から2時間特番で放送し、国内外で大反響を呼んだ。サリドマイド薬害で両腕に重度障害を持つ少年を13年間も追い続けたドキュメンタリーで、日本で初めて国際エミー賞を受賞したテレビ界の記念碑的番組だった。日テレはこれによって、民放がプライムタイムで硬派番組を放送するという流れを作ったのだった。

 この7月からは、母子家庭を描いた連続ドラマ『Woman』を放送中だ。ドラマ内でも頻繁に「母子家庭」という言葉が使われているため、本コラムでもあえて母子家庭とする。その方がドラマの持ち味が伝わるだろう。

善と悪、強と弱を併せ持つリアルな人間たちを描く

 主人公は28歳の青柳小春(満島ひかり)。幼いころ、母親・植杉紗千(田中裕子)が男(植杉健太郎=小林薫)と出奔したため、家族愛に恵まれずに育った。頼りの父親もすでに病気で亡くしている。けれど、たまたま駅のホームで知り合った山男・青柳信(小栗旬)と愛し合い、結婚。2人の子供、望海(鈴木梨央)と陸(髙橋來)にも恵まれ、小さな幸せを掴んだ。

 だが、信はホームで電車にはねられ、事故死。小春は2人の子供を懸命に育ててゆこうとするが、学歴も資格もない小春の収入は乏しく、やがて生活費にも事欠くようになる。しかも、どうやら小春は重い病気を患っているらしい---。

 これが物語の入り口だが、それ以外の筋書きを書くのは難しい。筆者の筆力不足もあるのだが、セリフや動作の一つ一つに無駄がなく、計算し尽くされているため、一部分を切り取って説明しづらいのだ。

 あらすじを書くことが、関係者に失礼と思わせる作品でもある。小春は薄幸だが、安っぽいお涙頂戴モノではなく、善玉と悪玉がハッキリ分かれているような分かりやすい物語でもない。画面の中にいるのは、善い部分と悪い部分、強いところと弱いところを併せ持つリアルな人間たちだ。

 失礼になることを覚悟で、筋書きの一部と印象的な場面を書かせてもらうと、小春の夫・信は電車にはねられて他界したのだが、原因は自分が抱えていた梨をホーム上で落とし、それを拾おうとしたためだった。

 なぜ、命と引き替えにしてまで、梨を拾おうとしたのか? その梨は小春を捨てた母親・紗千からのお土産だったからだ。小春は出奔した紗千を恨んでいたため、20年もにあいだ没交渉だったのだが、信は密かに結婚の挨拶に出向いたらしい。人情の機微だろう。

 では、なぜ梨はホームに落ちてしまったのか? 事故の検証に当たった警察は小春に対し、「ご主人は電車内で女子高生に痴漢をして、逃げていた」と説明した。けれど、その場には紗千と健太郎の娘・植杉栞(二階堂ふみ)が居合わせており、どうも栞が信に罠を仕掛けたらしい。栞にとって小春は異父姉だが、かねてから悪感情を抱いていた。

 これで、栞が悪玉ということであれば、韓流ドラマにありがちな分かりやすい物語なのだが、そうではない。小春は母親の紗千のことを"男をつくって自分たちを捨てた酷い人"と思い続けていたが、栞は小春に向かって冷然と言い放つ。

「あなたの父親は私のお母さんに毎日、暴力をふるっていた。それを救ってあげたのが私のお父さんです」

 父親の違う妹・栞の言葉に、ぼう然とする小春。どちらの言い分も本当のことなのだろう。実社会と同じで、見方を変えるだけで、真実はいろいろとある。

 紗千も小春をなじる。

「(あなたが)なついたのは、たまにしか帰って来ないで、甘やかすだけの父親だった」

 けれど、紗千の言葉は栞による誹りとは違い、どこか弱々しい。まるで"父親が酷い男だったから、私が小春を捨てたのは仕方がなかったんだ"と自分に言い聞かせているように聞こえた。さすがは名女優・田中裕子。複雑な心象風景まで見る側に伝える。

 小春と紗千、そして小春と栞の冷たい関係の中、あたふたとするのが、小林薫が演じる植杉健太郎なのだが、これがまた巧い。小林は、清濁併せ飲む平凡な人を演じさせるとピカイチだが、健太郎役も見事の一語。

 小春と紗千の会話が険悪な雰囲気になってくると、健太郎は弱々しく「もういいんじゃないかな・・・」と繰り返す。強く制するようなことはしない。

 栞にとって父親の健太郎は"暴力亭主から紗千を救った善意の人"なのだが、健太郎自身は自分の行動がすべて正しかったとは思っていないのだろう。少なくとも小春から紗千を奪ってしまったのは事実なのだから。

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