官々愕々
公務員宿舎の「宿護神」

廃止するはずだった公務員宿舎の生き残り作戦が本格始動した。

7月18日の日経新聞東京夕刊の一面トップに「公務員宿舎を保育所に」「待機児童解消へ転用」という見出しが大きく躍った。記事は、後追いしたマスコミ他社も含め、待機児童解消への貢献を期待する内容だった。廃止予定の公務員宿舎が生き残ることへの疑問や、経済性などに関する論評はゼロだ。

実は、保育園や保育ママ事業を公務員宿舎廃止回避作戦の切り札とすることを、3年以上前から財務省が計画していたことをご存知だろうか。

年収1500万円以上もらう高給官僚が都心一等地の公務員宿舎に、民間相場の3分の1以下の家賃で住んでいる。国民の批判が高まり、民主党政権がようやく削減計画をまとめたのが2011年12月。国家公務員64万人のうち、自衛隊などを除く一般職が34万人。その大半は地方出先機関で働いている。このため、全国に20万戸以上の公務員宿舎があるのだが、削減計画では、そのうちの5万~6万戸を廃止することになった。しかし、例によって、「霞ヶ関のレトリック」によって骨抜きにされたことは、2012年5月19日号の本コラムでも指摘したとおりだ。

中でも問題なのは、「廃止」=「即売却」ではなかったことだ。

何故、官僚は公務員宿舎を廃止しても売りたくないのか。ほとぼりが冷めたら、また復活させたいということもあるが、実は、それよりももっと切実な事情が、財務省にはある。あまり知られていないが、財務省には理財局という大きな局がある。その主要業務の一つが、各省庁舎・公務員宿舎などの運営管理業務だ。保有する大量の国有地の上にオフィスやマンションを建設し、それを各省庁や公務員に貸し出す。巨大な不動産事業者だと思えばよい。彼らにとっては、土地を売ったら、仕事がなくなり、リストラに直結する。まさに死活問題だ。

だから、公務員宿舎を廃止するとしても土地だけは死守したい。そうすれば何とか生き残り策を見出せるのでは、ということなのだ。

そして考えたのが、保育関連不動産賃貸業だ。財務省は、2010年6月に「新成長戦略における国有財産の有効活用」というものを打ち出している。その中に保育事業が入っているのだ。

保育所を作るとか保育ママ事業に貸与すると言うと、近隣の住民はもちろん賛成する。いまや「子育て」という言葉は、誰をも納得させる神通力をもっている。しかし、そこには大きな誤解がある。

本来なら、宿舎用地を売却し、民間事業者が大きなマンションなどを建ててくれれば、国の売却代金収入とは別に、毎年莫大な固定資産税収入が自治体に入る。それを子育て予算に使って民間の保育事業者への補助を行えば、はるかに大きな効果がある。売却の際に、保育園の併設義務を課しても良い。

昨春に関西地域のある廃止予定の公務員宿舎で保育ママ事業が始まるということが大々的に発表された。しかし、良く見ると、預かる子どもは2名と書いてある。この宿舎を売れば大きな売却収入があるし、固定資産税が入ってくれば、毎年保育ママ事業に多額の補助金を出せるだろう。売った方がはるかにいいのは明らかだ。

保育所を建てたり、保育ママ事業を公務員宿舎に入れれば、出て行けとは言えなくなる。これにより廃止予定の公務員宿舎も生き残れる。公務員宿舎温存と理財局の失業対策として「子育てを守護神に!」という財務省の高等戦術。次は介護だ。「俺たちは優秀。マスコミはバカ」と、財務官僚の高笑いが聞こえる。

『週刊現代』2013年8月10日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。