佐藤優のインテリジェンスレポート「7月18日付『独立新聞』に掲載された北方領土交渉に関する東郷、パノフ共同論文」「参議院選挙の結果と日本の国家統合」

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【まえがき】
参議院選挙の陰に隠れて大きなニュースになりませんでしたが、東郷和彦氏とアレクサンドル・パノフ氏の共同論文は、今後の北方領土交渉にとって、実現可能性のある指針になります。また、沖縄と中央政府の関係が、今後、危険水域に入ってきます。

【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.018 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No. 40 「7月18日付『独立新聞』に掲載された北方領土交渉に関する東郷、パノフ共同論文」
 ■分析メモ No. 41 「参議院選挙の結果と日本の国家統合」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.50『科学の果ての宗教』
 ■読書ノート No.51『米国製エリートは本当にすごいのか?』
 ■読書ノート No.52『里山資本主義――日本経済は「安心の原理」で動く』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程

分析メモ No. 40 「7月18日付『独立新聞』に掲載された北方領土交渉に関する東郷、パノフ共同論文」

【事実関係】
1. 7月18日、ロシアの高級紙「独立新聞」にアレクサンドル・パノフ元駐日大使(ロシア科学アカデミー米国カナダ研究所主任研究員)と東郷和彦元外務省欧州局長(京都産業大学客員教授、同大学世界問題研究所長)が、「日露平和条約交渉問題の解決に向けて」と題する共同論文を発表した。

2. 同日、「朝日新聞デジタル」がモスクワ発の記事でこの共同論文について報じるとともに、全文の日本語訳を掲載した。

【コメント】
1.
東郷和彦氏とアレクサンドル・パノフ氏は、ソ連時代末期、ゴルバチョフ・ソ連大統領の下で北方領土交渉が動き始め、2002年の鈴木宗男事件で交渉が頓挫するまで、北方領土交渉のキーパーソンをつとめた。公式の記録に残されていない部分を含め、東郷、パノフ両氏は交渉の経緯を熟知している。

共同論文を発表した意図について、パノフ氏は、

最大の問題は、現在まったく交渉が行われていないことだ。両国外務省はいずれも何かが起きるのを待っているのか、具体的な準備をしている様子が見えない。何かを始めなくてはいけない。そのための基礎を示し、交渉を前に進めさせるための提案なのだ。>(7月18日「朝日新聞デジタル」)

と述べている。

4月29日にモスクワで行われた日露首脳会談で安倍晋三首相とプーチン大統領が首脳の政治決断に向けて論点を整理することを両国外務省に命じたが、北方領土交渉はまったく進んでいない。東郷氏とパノフ氏は共同論文を発表して、交渉を後押ししようと考えていると見られる。

3.―(2)
日本外交の交渉文化を考えた場合、完全に「秘匿されたチャネル」を作るのは無理である。森喜朗元首相、谷内(やち)正太郎官房参与(元外務事務次官)など政治サイドの有能な人材を活用するか、あるいは交渉能力が高く、安倍首相の信任が厚い齋木昭隆外務事務次官に特別のミッションを与え、プーチン大統領が指名したロシア側代理人と秘密交渉を行うのが現実的と思う。

5.―(2)
現実的に考えた場合、イルクーツク声明の延長線上で、歯舞群島、色丹島の日本への引き渡しと、国後島、択捉島に関しては帰属問題の最終的解決には至らないが、日露双方が何らかの譲歩をするという方向で、両国外務省が交渉を開始し、出口を探る以外、北方領土問題を動かすシナリオは見当たらない。・・・・・・

分析メモ No. 41「参議院選挙の結果と日本の国家統合」

【事実関係】
7月21日夜、参議院議員選挙の結果を踏まえ、安倍晋三首相がフジテレビの番組で、

安倍晋三首相は21日夜のフジテレビの番組で、参院選沖縄選挙区で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県外移設を掲げる野党候補の勝利が確実になったことに関し「残念な結果になった。しかし、普天間の固定化は断じてあってはならない。移設は日米合意にのっとって(県内で)進めていく」と語った。>(7月21日『朝日新聞デジタル』)

【コメント】
1.―(1)
沖縄選挙区では、地域政党・社会大衆党委員長の糸数慶子氏が29万4420票(得票率51.13%)を獲得し、自民党公認の新人・安里政晃氏(26万1392票、得票率45.40%)を破って3選を果たした。安倍首相が沖縄入りしたにもかかわらず、自民党は敗北した。

1.―(2)
米海兵隊普天間飛行場の辺野古(沖縄県名護市)への移設については、糸数氏のみならず、安里氏も反対の姿勢を明確にした。自民党沖縄県連と自民党本部の間には、基本政策をめぐって埋めることのできない溝があることが今回の選挙で露呈した。

3.―(1)
沖縄側は、安倍政権に対する警戒感を強めている。『琉球新報』は、22日付社説で、

普天間飛行場の返還問題に対する沖縄の民意は明解だ。糸数氏も、自公が推した安里政晃氏も県内移設に一貫して反対した。最新の琉球新報の世論調査でも74%が県内移設にノーの意思を示した。/自民党本部は、自民県連の「県外移設」の意向を無視して、党公約に辺野古移設を明記した。政権与党は、沖縄の民意や自然環境の保護を求める世界潮流も直視し、日米合意の破綻を悟るべきだ。/繰り返し指摘してきたが、県知事や県議会、県下41市町村の全首長、全市町村議会が辺野古移設に反対している。民主的手続きを一顧だにしないのはアンフェアであり、民主国家とは言えない。日米は民主主義、基本的人権の尊重を共通の価値観だと盛んに喧伝(けんでん)する。ならば、沖縄にもその民主主義をきちんと適用してもらいたい。

と強調した。

3.―(3)
上述の『琉球新報』『沖縄タイムス』の社説は、いずれも沖縄の民意を正確に代弁している。安倍政権がこの現実を無視して、普天間飛行場の辺野古移設を強行すれば、沖縄は、主権回復による自己決定権を主張し、異議申し立てを行うことが確実だ。その結果、沖縄の分離気運が高まり、日本の国家統合を揺るがす事態に発展しかねない。・・・・・・