金融・投資・マーケット 選挙

小川和也 × 名取良太 【後編】
有権者自身が、自分たちの力の使い方に慎重にならなければいけない時代

[左]小川和也さん(グランドデザイン&カンパニーCEO)、[右]名取良太さん(政治学者/関西大学総合情報学部教授)

【前編】はこちらをご覧ください。

地方選挙では何が起こるかわからない

名取: ネットの場で熟議というのは、やっぱりなかなか難しいと思います。有権者にとっては、選択のための判断基準を提供してくれる一つのツールだと思います。ただ、そこで提供される情報は、マスメディアだけではカバーできない部分を埋める、民主主義にとって非常に重要なものになります。

 ネット上での政治家の発言と、その後の言動・行動を比較することが容易にできます。国会でどういう発言や行動をしたのかは、国会の議事録をネット上で自由に閲覧できるので、確認できます。今は映像検索までできるシステムもあります。

 検証するための情報とツールは、ネット上にたくさんあるんですね。非常に堅苦しい見方かもしれませんが、研究者としては、民主主義をうまく機能させるために、ネットやネット選挙をどのように利用すべきか、を考えることが重要だと思いますし、そのための研究や、研究成果の公開、さらには教育が必要になると思います。

 話は変わりますが、ネット選挙は、間違いなく地方選挙が盛り上がるように思います。1票の価値を、非常に高く見積もることができるからです。とくに市議会選挙などは、本当に1票の差で当落が決まりますし、下手をすると同点くじ引きというケースもあるんです。

 だから、1人動かすだけで結果が変わるかもしれないという可能性のなかでやっていくので、国政選挙とは次元が全然違うんです。私は、地方選挙では何が起こるかわからないな、と見ています。

小川: なるほど。地方選挙ですね。

名取: 少数の行動の変化が、選挙結果に影響を与えますからね。誹謗中傷が本当にストレートに反映される可能性もあるんじゃないかと思います。

小川: じゃあ、ネガティブキャンペーンみたいなものの影響もあるわけですね。

名取: いま言ったように、10票、100票で結果が変わる話ですから、誹謗中傷もわずかな人に届けばそれでいいんですね。大半の人がスルーしたとしても、数人の投票先が変われば結果が変わってしまうわけです。だから、効果的なんですね。

 一方、参院選の東京都選挙区で言うと、有権者が1000万人がいて、前回の結果を見ると最下位当選者と次点との差は10万票です。そこで何か誹謗中傷を流しても、結果を変えるほどの有権者が動くかどうかといえば、難しいでしょう。だから合理的な戦略にはならない。しかし地方選挙は違います。誹謗中傷も合理的な戦略になりえます。

 さらに、規模の小さな町ですと、その誹謗中傷に反論したり、修正したりする人が、あまり出てこないかもしれない。また、監視する人材の確保も難しいはずです。国政レベルについてはよく言われますけれども、どのレベルの選挙でも同じことが起こるわけで、同じだけのコントロールが必要なんですが、多分そこまで監視できないでしょうね。

小川: そういう意味では、参院選とか衆院選というような大きいものだけが選挙だと思われているけれども、実は選挙って日常茶飯事なんですよね。

名取: 大げさに言うと、今度の公示から、ほぼ1日の休みもなくネット選挙運動が行われ続けます。市町村長選挙は、ほぼ毎週、どこかで実施されていますからね。

小川: そうすると、もしかして注目すべきなのは、選挙結果にネットの影響が及ぼされるという意味では、地方選挙ですかね。

名取: そうですね、地方選挙は一つ注目すべきだと思っています。

小川: とくに今まで以上に誹謗中傷が生じやすいネットという手段が出てくることが、より選挙に影響を及ぼすのかもしれませんね。

名取: ただ、若者の話とか政治に関心のない人の話も出ましたが、あまりに失言や誹謗中傷ばかりだと、結局「みんなダメだ」と宣伝しているようなものだし、より選挙に行く気が失せる可能性がありますね。

小川: そういう意味では、ネガティブキャンペーン合戦というのも度が過ぎた場合は総体的にみんなをハッピーにしませんよね。

名取: そうですね、「みんな信用できないよ」と宣伝しておいて、「関心を持ちなさい」というのも非常におかしな話ですよね。首相も大臣も、野党の党首も失言でかなりやられてますが、「結局、みんなダメってことだね」という印象を与えるようにも思います。

小川: 韓国なんかも、ネット選挙を長らくやってきていますが、ネガティブな事象が生じたことによって規制が強化され、全体としてシュリンクしてしまった過去があります。それで、あらためてその障壁をなくしたことによって、どのくらい相関はあるかは別として、投票率も上がったということがあります。

 だから、日本も今回の参院選を経て、もしかしたらネット活用に関して非常にネガティブな面がたくさん語られるかもしれません。そうすると、「やっぱり規制したほうがいいんじゃないか」ということになって、いろいろな形で規制が入ることも考えられると思うんですね。

 でも、そうなってしまうと本末転倒というか、これから育てていかなければいけないプロセスなのに、「それ見たことか、やっぱりネット選挙なんて危ないじゃないか」ということになって、閉じていってしまう、育たなくなってしまうというのがちょっと怖いな、と思っています。

 ただ、さっきおっしゃったように、選挙というのは頻繁にあるし、特に地方選挙はネットの影響を強く受ける可能性がありますね。とにかく長い目でネットと選挙の関係を構築して行く必要があると思います。

名取:  現在は候補者側も手探り状態かと思いますが、数を重ねていくうちに、効果的な使い方・戦略が生まれてくるように。そうすると、マスメディアとは違った影響を、投票行動や選挙結果に与えることがあるかもしれません。したがって、地方選挙におけるネット選挙運動を観察し続ける必要はあるでしょう。

 ただ、政治家や政党ばかりにノウハウを蓄積させるのではなく、有権者も、自分たちにとって望ましい使い方を共有しなければなりません。それはとても難しい事ですが。

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