選挙

小川和也 × 名取良太 【前編】
ネット選挙が可能にする「双方向のコミュニケーション」にはどのような意味があるのか

[左]小川和也さん(グランドデザイン&カンパニーCEO)、[右]名取良太さん(政治学者/関西大学総合情報学部教授)

ネット選挙のメリット・デメリット

小川: ネット選挙に関して、政治学者がメディア等の公の場で発言しているケースはあまり多くない印象なのですが、実際どうなのでしょうか?

名取: 予測や仮説ではなく、分析結果が出てはじめてお話しできる部分が多いですから、選挙結果や意識調査の結果が出ていない段階で発言することには、慎重になっているかもしれません。また、メディアの方々も、小難しそうな数式や数字がダダッと羅列されている論文を読んで、計量政治学者って気難しそうなイメージを持たれているのかな、とも思います。

 そもそも研究者のメインの仕事は論文を書くことで、メディアで発言した数を競っているわけではない、ということもありますが。ただ、現在我々が進めている科研費調査(JESⅣプロジェクト)で、ネット選挙に関して、いくつか興味深い事が明らかになっているので、今回は、それを紹介していきながらお話しさせていただきたいと考えています。

瀬尾: 日本の政治学者のイメージって、中西輝政さんや、そのあとの世代でいうと中西寛さんみたいな方ですね。計量政治学というのは、今回初めて知りました。

小川: 名取さんの専門は、まさに計量政治学で、その中のトップランナーでしょう。

名取: いや、一介のランナーにすぎません。本当のトップは、どんどん欧米に勝負しに行っています。実際、プリンストン大学やダートマス大学といった有名大学で教鞭をとられている方もいらっしゃいますし、日本にいる30代、40代前半の研究者の中にも、欧米の学術誌に論文を載せている方が結構いらっしゃいます。

小川: ネット選挙は、選挙研究者にとって興味深いテーマになり得ますよね。ネットとデータ解析の視点でいうと、今はソーシャルメディアを中心としたWebデータの解析論になっている場合が多い気もします。

 たとえば、Twitterの中で言及された数とか、その内容のネガティブ・ポジティブとの相関なども、ひとつの参考にはなれども、それだけでは選挙運動や政策提言に活かすための材料には事足りない面が多々あると考えています。それを計量政治学者・選挙研究者はどう見ているのか、どういうデータや研究なりが手許にあるのか、関心を持っています。

名取: ネット選挙に関しては、さまざまなメリット・デメリットが指摘されていますが、「なりすまし」や誹謗中傷といったデメリットは、分かりやすいですし、出てきやすいでしょう。

 一方、メリットのほうなんですが、それを実現するためのハードルが高いと感じています。このままでいくと、メリットがなくてデメリットばかりで「ネット選挙はダメでした」ということに陥ってしまうように思います。

 そう考える理由はいくつかありますが、たとえば、インターネットユーザーに向けた調査と、ネットユーザーではない人も含めた郵送調査を比較すると、政治家を信頼する割合は、ネット調査のほうがより低い。調査対象者の83.3%が政治家を信頼していません。「政治家はあなたのために働いていると思いますか」という質問に対して、「そうは思わない」と「どちらかといえばそうは思わない」を合わせると83.3%になります。

 郵送調査だとこれが74.9%。大きな差とまでは言えないかもしれませんが、ネットユーザーのほうが、より政治家を信頼していない。また、「マスメディアの選挙情勢報道を自分の投票選択でどれだけ重視しているか」という質問には、ネットユーザーの21.1%に対して郵送調査の方は34.4%の人々が「重視している」と答えていて、ネットユーザーは政治家もマスメディアも、相対的に信頼していない。

 ですから、ネット上でさまざまな情報が提供され、候補者がいろいろなことを発信していくとしても、ネットユーザーは、穿って見る傾向があるように思います。その情報の裏側にある部分を、あえて見るような可能性がありますね。

小川: 今回の参院選から、候補者がネットを使っていろいろなメッセージを発信しています。それをどの程度、有権者にキャッチしてもらえるのか。ネットを通じていろいろな発言の機会が増えて、それが投票行動に結びつくということを期待している人も多い。

 当然、政治家の皆さんはネットを選挙にうまく使っていきたいと思っているわけです。しかし、今の話だと、発信機会が増えてもそもそもの信頼性に課題があったとすれば、それ以前の問題となってしまう。

名取: メッセージをキャッチしてくれるだろうけれども、それを額面通りに受け取るということは、もしかしたら少ないかもしれませんね。

小川: それは驚愕の事実ですね(笑)。

名取: そもそも投票先の選択は、年齢・性別・所得といった社会的属性、政党支持、争点態度、現在の与党を評価するならば与党に投票するし、評価しないなら野党に投票するという業績評価といった要因で規定されます。

 そこに「ネットによる選挙運動」が新しい規定要因として加わるかというと、既存の要因と並列に扱うことはできないと思います。業績評価とか争点態度に影響を及ぼすとは考えられますが、間接的に投票先の選択に影響するにすぎない、と見ています。

 たとえば、ある候補者や政党の業績を低く評価している人が、いろいろな情報を得ることでもう少し業績を高く評価したり、逆に高く評価していた人が低く評価したりとか、あるいはある政策争点について、自分の考えに近い人を見つけるといった影響はあると思います。しかし、それが既存のマスメディアに比べて大きな影響を与えられるかといえば疑問があります。

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