わかりやすい伝え方の法則
【第3回】 説明する側の「大きな勘違い」

〔PHOTO〕iStockphoto

【第2回】はこちらをご覧ください。

 第1回の記事で、そもそも"わかる"とはどういうことなのか、また「"わかる"の3段階」などをお伝えしました。わかるには3つの種類があります。

①話の内容を把握する
②話の内容を納得する
③話の内容を再現する

 まず、相手が言っている内容を把握しなければ、「わかった」ことにはなりません。次に、相手の話を納得しなければ「わかった」とはなりません。言っていることは理解できても、納得できなければ「なるほど、そうだね」とは思いません。そして最後に、せっかく話を聞いても、次の日に忘れてしまったら「わかった」とはいえません。つまり話を自分一人で再現できなければ「わかった」とならないのです。

 これが"わかる"の3段階です。

 続いて第2回では、話をわかりやすく伝える絶対ルール"テンプレップの法則"をお伝えしましましたね。どんな話でも、テンプレップの法則に従えば、わかりやすくなってしまう、という魔法のような法則です。

1.これから伝える内容のテーマ(Thema)
2.伝えたいことの数Number)
3.伝えたい内容のポイント/結論Point)
4.どうしてそう言えるかという理由Reason)
5.実際にどういうことがあるのかという具体例Example)
6.最後に結論を念押しPoint)

 「テンプレップ」とは、この6要素の頭文字をとって、順番に並べたものです。この順番で伝えると、どんな内容でもわかりやすくなってしまうのです。

伝え手の大きな勘違い

 今回は、説明する側の「大きな勘違い」についてお話ししておこうと思います。この「勘違い」のせいで、説明が分かりづらくなっているケースが多くあります。非常にもったいない話です。でも、その勘違いがなくなれば、すぐに状況は改善されます。

 それでは、多くの方が勘違いしているポイントを紹介していきます。

【勘違い1: 一度言えばわかる】

 「説明は一度だけすればいい」
 「一度『聞き手』が納得したら、もうその説明は不要」

 そう考えている人もいます。「同じ事を2度言わせるな」というセリフを聞いたことがある方も多いでしょう。

 たしかに、誰だって、何度も同じ事を伝えたくないと思うかもしれませんね。しかし、どんな場合でも「一度言えばわかる」というわけではないんです。

 人間は忘れる動物です。ドイツの心理学者エビングハウスによると、新しく覚えたことでも20分後に42%、1時間後に56%、1日後には74%も忘れてしまうといいます。つまり、一度納得しても、「あれ、それって何だっけ? どういうことだっけ?」となることが往々にしてあるわけです。

 そのため、時間が空いたり、いったん別の話題に進んだ時は、再び前に戻って確認する必要があります。その時理解できたからと言って、その知識が100%定着して、その後も記憶に残り続けると考えてはいけません。

 "わかる"ためには、「再現」できることが不可欠です。一旦話を聞いて理解し、納得しても、それを覚えていられなければ、相手は"わかった"とはなりません。

 ですから伝え手は、相手が「再現」できるように、工夫しなければいけないのです。忘れやすいポイントを繰り返して何度も念を押したり、語呂合わせで覚えやすくしたり、ポイントをまとめて整理したり・・・。

 それを怠ると、相手は忘れてしまいます。そして忘れてしまうということは、その人たちにとっては、「最初から聞いていない」のと同じなわけです。

 そんな時に「一度伝えたのだから、聞き手は100%理解している」という前提で話を進めると、聞き手はチンプンカンプンになってしまうのです。

 また、「再現」が必要なのは、知識だけではありません。「理屈」や「ロジック」についても、相手が自分一人で「こういう理屈で、こうなるんだったな」と再現できなければいけません。

 説明を聞いた時には、なんとなくわかったような気になりますが、少し時間が経つと「やっぱり分からない」ということがよくあるからです。学校時代、数学が苦手だった方などは心当たりがあるのではないでしょうか?

 よく間違えるポイント、忘れてしまいがちな項目については、繰り返し再確認をするべきです。つまり、伝え手は、相手が「再現」できるように工夫しなければいけないのです。

 もちろん、同じ内容ばかり繰り返し説明していたら、いつになっても先に進めませんし、一度話せば確実に理解できるような内容まで「再確認」する必要はありません。

 でも、物事を理解する上で必要な知識や理屈の場合は、何度も何度も繰り返して説明・確認すべきです。そうすることで、相手は自分一人で「再現」できるようになるのです。

【勘違い2: 正確に表現しなければいけない】

 「人に何かを伝える時には100%正確に伝えなければならない」

 これも非常に有害な「勘違い」です。

 なぜかというと、100%正確に伝えようとすると、話が複雑になり、かえってわかりづらくなることが多いからです。わかりづらくなれば、「話を把握する」ことも「話を再現」することも難しくなります。

 もちろん、話が複雑になったとしても、正確に伝えなればいけないことはあると思います。しかし、ほとんどのケースでは「100%の正確さ」は不要です。むしろ、とりあえず"ざっくり"分かることの方が大事だったりします。それに、詳細に説明しなければいけないことでも、最初にざっくり説明しておいて、細かいところは後から補足していく方が、理解してもらう上では効率的です。

 たとえば、「Emailのアカウントとは何か?」ということ をコンピュータにくわしくない人に説明するとします。

 この時、細かいところまで正確に伝えようとしたら、こうなります。

メールサーバにアクセスするための使用権のこと。そのメールサーバ上でメールアドレスを取得したユーザに与えられる権限であるので、通常はメールアドレスと一対一に対応する。メールアカウントを与えたユーザに対しては、一対のユーザIDとパスワードを割り当て、メールサーバ上に受信メールを保存するためのメールボックスを用意する。これにより、そのサーバ上でメールの送受信ができるようになる。また、メールサーバを利用する時のIDをメールアカウントということもあり、大抵はメールアドレスの「@」より前の部分がIDとなっている。 (IT用語辞典より

 これが「正確な説明」です。でも、これで、コンピュータに詳しくない人にも理解してもらえるでしょうか? かなり難しいと思います。なぜかというと、正確に伝えようとするあまり、話が複雑になりすぎているからです。

 では、どうすればいいのか?

 たとえば、次のように説明します。

 「メールアカウントとは、Emailを受け取るため住所みたいなものです。はがきと一緒で、書いてある『住所』にメールが送られてきます。また自分がメールを送る時には、差出人として相手に伝わります。この『メールアカウント』が違うと、『別の人からのメール』と認識されます

 この説明は、正確ではありません。ですから、真実の10%も伝えられていないかもしれません。でも、少なくとも、「Emailのアカウント」がどんなものであるかは理解できるはずです。こっちの方が分かりやすからです。

 正確さと分かりやすさは、多くの場合、相反します。正確に伝えようとすると、どんどん複雑になり、分かりづらくなるのです。そのため、「分かりやすく説明すること」が第一目的の時は、多少大雑把であっても、聞き手が理解しやすい言葉で表現することが大事なのです。

 また、正確に表現すると、単純な話でも伝わりづらくなることがあります。

 たとえば、こういうことです。

 私たちはふだん、テレビや新聞、雑誌のことを「マスコミ」と言いますよね。これは「マス・コミュニケーション」の略語ですが、テレビ・新聞・雑誌などを指す言葉としては間違っています。正しくは「マスメディア」です(「マスコミ」とは、「マスメディア」による大衆への情報伝達のことを言います)。

 しかし、一般的に「マスコミ」という言葉で理解されているため、「マスメディア」ではなく「マスコミ」を使った方が伝わりやすいのです。

 このように、馴染みがあって、理解されやすいという視点で考えると、「マスコミ」と表現すべきなのです。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら