「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第35回】
「メチャクチャをやるしかない」という叫び声を上げるとき

【第34回】はこちらをご覧ください。

黒雲のように不安が湧き上がってきた

 7分間のニュースリポートを作るに当たって、後輩ディレクターのS君は頑なにカメラマンと編集マンと組むことを拒み、延々と「僕1人でやりたい。僕1人で完璧に作れます」と訴え続けた。聞いてみると、それは、別の局でテレビ番組制作の仕事を始めた頃から、ずっと変わらぬ彼のやり方だった(第34回参照)。

 S君の教育係に任ぜられていた僕は、さっそくその話を編集長に報告した。すると編集長は数分間、黙って考えてからS君を呼び、こう告げた。

 「お前に制作してもらう7分のニュースリポートだが、お前1人で作っていいぞ。事情は奥村から聴いた。今回はカメラマンも編集マンも抜きでいい」

 「あ、本当ですか! もちろん1人で大丈夫です」

 「そのかわり、何が何でも予定通り、4日後までに仕上げてくれ。撮影スケジュールも編集スケジュールも決まっていて、今になって変更することはできない。その点、カメラマンや編集マンがいればまだ楽になるはずだし、1人でやるにはかなりハードなスケジュールだけど・・・それでもお前、大丈夫か?」

 「はい。このスケジュールでOKです! ありがとうございます」

 S君は泣いて訴えていたのが嘘のような笑顔を見せ、「じゃあ、まずは取材に行ってきます」と言い残すと、そそくさと出て行った。編集長と同僚たちは「ああ、やっとこれで一件落着か」などとつぶやき、ホッとした表情を見せた。

 しかし、S君の後ろ姿を見送った僕の心の中には、なぜか黒雲のように嫌な予感が湧き上がってきた。「S君は本当に大丈夫だろうか? このままでは済まないんじゃないか?」と思い始めていたのである。

血走った目で睨みつけられて

 S君がニュースリポートの制作に取りかかって4日が経ち、放送当日を迎えた。この日の午前10時までにS君はリポートを完成させ、編集長と、教育係の僕に見せることになっていた。放送は、その日の午後6時からである。

 その日の朝、僕は早めに出社した。隣のS君の席には、カバンが置かれているものの、彼自身は一向に戻ってこない。あいつ、たぶん徹夜で編集を続けているのだろうな・・・と僕は想像した。

 リポートを見せてもらう約束時刻の10分前、つまり9時50分、僕はS君が編集作業をしている部屋を覗いてみた。そして、目を疑った。