いま優先すべきは「子育て支援」 最終回 日本が豊かで機会平等な国になるために、まず始めるべきこと。

2013年07月18日(木) 柴田 悠

柴田 悠経済の死角

upperline

「子どもの貧困」は、この30年間、政府に放置されつづけ、およそ1.4倍に増えてしまった。日本では現在、15歳未満人口の15%にあたる約200万人もの子どもたちが、相対的貧困と「機会の不利」を被っている(図5)。したがって政府は、せめて「子どもの貧困を毎年継続的に減らすことができる」水準までには、「子育て支援」を拡充し、その水準を維持すべきだろう。

 たとえば、もし子育て支援支出(2012年度4.8兆円)を先進国平均のレベルまで高めたいのなら、およそ4.5兆円の追加予算が必要となる(図2)61。その4.5兆円を、もし「増税」によって調達するならば、どうなるだろうか。まず、個人所得税(2012年度税収13.6兆円62)の累進性を高める場合は、1兆円未満の税収増加しか見込めない63。相続税と贈与税を増税する場合は、その合計税収は2012年度で1.5兆円64だから、税率を3倍に高める必要がある65。消費税ならば、5%増税分の見込み税収が13.5兆円だから、さらに約2%分の増税をすれば足りる66。したがって現実的には、消費税増税(と低所得者対策)が主な手段となるだろう。

 では、その4.5兆円を、「増税」ではなく「高資産高齢者の老齢年金の一部削減」によって調達するなら、どうなるだろうか。2012年の数字で見れば、老齢年金給付は54兆円だから、その8%を削減することになる。そのためには、たとえば「公的年金や恩給の受給者がいる2人以上世帯」のうち、「住宅・宅地資産額が5,000万円~1億円の世帯」への老齢年金給付(公費負担部分)を「1世帯当たり月額3万円」だけ削減し、さらに「住宅・宅地資産額が1億円以上の世帯」への老齢年金給付を「1世帯当たり月額5万円」だけ削減すれば、ちょうど足りる67

 子育て支援の追加財源を、「増税」によって調達するのか、「高資産高齢者の年金削減」によって調達するのかは、有権者が選択する問題だ。しかし、「増税」の場合は、その多くを「消費税増税」に頼ることになり、その結果、消費が鈍ってしまう危険性がある。そのため、「高資産高齢者の年金削減」のほうが無難かもしれない。

61. なお、もし政策目標が「待機児童(2012年約70万人、注11参照)の解消」だけであれば(実際には「所得補助」などの政策目標も日本ではまだ充分に達成できていないと思うが)、保育制度の規制改革を適切に行えば、4.5兆円よりももっと少額の追加予算で、目標を達成できるかもしれない。というのも、鈴木亘氏の試算によれば、「(1)『新認証保育所』による供給増、(2)原則価格自由化による需給調整、(3)利用者への直接補助による弱者対策、応能負担の維持」という「保育制度改革案」を実施すれば、0.7兆円の追加予算によって保育サービスを児童100万人分増やすことができるという。また、50万人分増やすだけなら、0.1兆円強の追加予算で足りるという(鈴木亘「財源不足下でも待機児童解消と弱者支援が両立可能な保育制度改革――制度設計とマイクロ・シミュレーション」『学習院大学経済論集』第48巻第4号、2012年、257・259頁)。0.7兆円の追加予算なら、一体改革(消費税増税)によって確保される子育て支援の追加予算と同額であるため、それ以上の追加予算は必要ない。よって、上記のような規制改革案は、検討に値するだろう。
 
62. 財務省「主要税目の税収(一般会計分)の推移」。
 
63. 2013年税制改正の個人所得税増税(課税年収4,000万円以上の税率:40→45%)によって見込まれる税収増加分は、わずか0.06兆円にすぎない(財務省「平成25年度税制改正の大綱(5/5)」)。
 
64. 財務省「相続税の課税割合及び相続税・贈与税収の推移」。
 
65. OECD諸国で相続税の税収規模(対GDP%、2011年)が最も高いのはベルギーの0.6%で、日本(0.3%)の2倍にすぎない(OECD, .Stat, 2013)。3倍にするのは至難の技だ。
 
66. ただし、消費税増税によって消費が鈍る可能性があり、ここではその可能性を無視して計算している。
 
67.「全国消費実態調査」(2009年)と「国民生活基礎調査」(2009年)の結果から推計。
次ページ  結論を述べよう。  私たちは…
前へ 1 2 3 次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
関連記事


underline
アクセスランキング
1時間
24時間
トレンドウォッチ
編集部お薦め記事