民放では久しくなかったビジネスマン向けドラマがスタート! 7月期作品中、図抜けて面白い『半沢直樹』
TBS日曜劇場『半沢直樹』公式HPより

 7月期ドラマの一部がスタートした。力作ぞろいだが、TBSの日曜劇場『半沢直樹』が図抜けて面白い気がする。

 熱血漢の銀行員・半沢直樹(堺雅人)を主人公とし、メガバンクの内幕をリアルに描いた作品。F1層(20~34歳の女性)向けの作品が幅を利かせる中、サラリーマン社会の悲哀や醜悪な部分を見せつける。こんなドラマがゴールデンタイムで放送されるとは、画期的だ。「会社って、そうなんだよな」とうなづきながら見たビジネスマンも少なくないのではないか。

 しかも脚本(八津弘幸氏)が巧みだから、エンターテイメント性も十分。原作は直木賞作家の池井戸潤氏。過去にも、土木業の談合を描いた『鉄と骨』や自動車メーカーの横暴ぶりを指弾した『空飛ぶタイヤ』を発表し、ともにビジネスマンらの賞賛を浴びている。

 『空飛ぶ---』は快作だったが、三菱自動車のリコール隠しなどをモチーフにしていたため、スポンサーの手前、地上波ではドラマ化不可能とされていた。その間隙を突くように、4年前にWOWOWがスペシャルドラマ化すると、ATP賞などの各賞を総ナメにしている。

 地上波にとって、スポンサーは自動車メーカーだけでなく、メガバンクもそうだから、ドラマ化には勇気も要ったことだろう。伊與田英徳、飯田和孝の両プロデューサーら制作陣に拍手を送りたい。これぞ視聴者に望まれていたドラマ、いや、視聴者に提供すべきドラマだろう。

 今年1月から2月に放送されたNHKのスペシャルドラマ『メイドインジャパン』も電機メーカーの内幕物だったが、残念ながら、やや甘口だったし、メーカーの実態を十分に表現しているとも言い難かった。NHKが出来なかったことを、TBSがやり遂げた形だ。

メガバンクの内幕を真正面から描いた快作

 『半沢---』は、ブラック企業問題に敏感な就職前の学生にもお薦めだ。学生は世間から一流と呼ばれる企業、その中でも賃金の高い大企業に引かれがちであり、就職人気ランキングにはそんな社名がズラリと並ぶが、社会人歴の長いビジネスマンの見方はやや尺度が違う。自ら進んで社畜化している人を除くと、大抵は賃金よりも働きやすさ、あるいは仕事で得られる充実感、職場の人間関係の良し悪しを重視する。

 学生たちが『半沢---』を見れば、一流企業への就職が必ずしも幸福とは直結しないことを知るだろう。無論、メガバンクなどで幸福感や満足感を得られる人も大勢いるが、幸福や満足はあくまで個人の価値観の問題であり、勤務先のブランドや収入で決まるわけではない。その点、このドラマはメッセージ性も高い。

 半沢直樹は、「東京中央銀行」大阪西支店の融資課長だ。自分の点数稼ぎのことしか頭にない支店長(石丸幹二)とその腰巾着の副支店長(宮川一朗太)から5億円の融資をゴリ押しされ、渋々通したものの、融資先はすぐ倒産。すると、今度は全責任を押し付けられる。融資先が粉飾決算をしていたのだ。解説付きだったとはいえ、粉飾決算が物語の冒頭から登場するゴールデンタイムのドラマも珍しい。

 支店の面々や本部は半沢を激しく責め立てる。ドラマというものはオーバーに作られがちだが、上司たちの責任を部下に押し付ける企業は実際に多く、このシーンを見て感慨にふけったビジネスマンもいたのではないか。半沢は「手柄は上司のもの、責任は部下のせい」と口にしたが、これもドラマ上に限った話ではなく、大抵の企業がそうだろう。恋愛ドラマに登場する人物たちの職場は、お洒落で、みんな仲良しで、楽しいことばかりだが、そんな職場はまず実在しない。

 半沢の同期の近藤(滝藤賢一)はメンタル面を病んでしまうと、閑職に飛ばされ、さらに別会社に出向させられる。これもリアル。やはり同期の渡真利(及川光博)は、「銀行は近藤を切り捨てた」と憤ったが、これも本当のことだ。池井戸氏は慶応大学卒業後、銀行に勤務した経験がある。ちなみに半沢と近藤、渡真利も慶応OBという設定になっている。

 メガバンクでは近藤のように40代での出向があり、しかも復帰はまずなく、賃金は出向先の水準まで下げられる。もしかすると、就職前の学生の中には、そんなメガバンクの実態を知らない人もいるかもしれないから、参考になるだろう。「近藤と違い、自分に出向はない」などと考えているメガバンク志望の学生がいるととしたら、かなり現実とズレている。ドラマで描かれていないのは、出向先では疎まれがちなことぐらいだ。

 舞台となる東京中央銀行は、「産業中央銀行」と「東京第一銀行」の合併で生まれた。両行の出身者の間には確執がある。実在のメガバンクでもそうで、出身行がどこなのかは退職時まで付いてまわる。銀行の合併を描いた小説は『大逆転』(高杉良著、1980年)など古くからあるが、それを正面から描いたドラマは記憶にない。この点でも画期的だ。

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