官々愕々
公務員改革の茶番

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 公務員改革をめぐって、政府による世論誘導が始まった。安倍政権による官僚顔負けの巧みな「騙しのテクニック」。悲しいことに、それを見破って国民に正しい情報を伝えるべきマスコミが真っ先に騙されているのをご存知だろうか。

 例えば、6月29日の日経新聞朝刊記事の見出し。「内閣人事局 懸案残す」「来春設置へ仕切り直し」「秋までに具体案」と書いてある。内容は、前日に開催された国家公務員制度改革推進本部(本部長安倍総理)で、内閣人事局という組織を来春に設置することが決まったが、具体化に向けていくつかの課題があるという紹介である。

 マスコミの記者は、殆ど勉強する間もなく1~2年で担当が替わる。官邸サイドから彼らを操るのは非常に容易だ。今回の新聞の見出しを見た国民は、あたかも、安倍政権が公務員改革に新たに取り組み始めたと思うだろう。そして、公務員改革は難題だから、調整が大変なのだと理解する。それが安倍政権の狙いだ。

 '08~'09年にかけて公務員改革事務局の審議官として、官僚や自民党議員の行動をつぶさに見て来た私には、安倍政権の意図がよくわかる。私が記者なら、「公務員改革 4年前に逆行」「首相主導演出のため課題先送り」と書いて、安倍政権の演出を批判して改革に追い込もうとしただろう。どういうことか解説しよう。

 内閣人事局の創設は、'08年に成立した国家公務員制度改革基本法に書いてあった。その狙いは、現在各省ごとに行われている公務員人事、とりわけ幹部官僚の人事を官邸内に新設する内閣人事局でまとめて行う。これにより、縦割りの省益を重視する官僚が評価されて出世する仕組みを止め、全国民的利益を実現できる官僚を抜擢しようというものだ。

 実は、この基本法を受けて、4年前に自民党麻生政権は既に今議論している内容を盛り込んだ公務員法改正案を提出している(民主党の反対で廃案)。法案作りの段階で争点になったのは、第一に、人事院、総務省、財務省などが持つ公務員の人事や組織に関する権限を内閣人事局に移すこと、第二に、内閣人事局長を政治家にやらせる条文を入れること、第三に、幹部官僚を成績の相対評価で降格させられる条文を入れることなどだ。官僚と自民党議員はいずれにも反対した。

 今回、新聞各紙が報じた「残された課題」は、この三つである。しかし、これらは、4年前に決着済みだ。渡辺喜美氏(現みんなの党代表)が自民党を離党して以来、党内の殆どの議員が改革に反対する中で、我々が、マスコミと世論を味方につけて何とか提出までこぎつけた。ただし、その内容には不十分な点も多く、特に幹部官僚の降格規定については私は担当から外され、完全に骨抜きにされた。

 実は、これを批判して、みんなの党が2010年に幹部公務員の降格を自由に行えるようにした先進的な法案を作ったのだが、野党だった自民党はこの時共同提案者となっている。

 本来は、その法案を出し直せばよいのだが、安倍政権は、4年前の法案に戻そうとしている。それは、官僚たちへの配慮だ。つまり、とんでもない後退なのだが、それを何とか「前向きな」改革だとアピールしたい。

 そこで、党内の議論を4年前に戻してわざと紛糾させ、これを報道させる。最後に「安倍総理の裁断」で守旧派を押し切ったことにして、「強力なリーダーシップを持つ改革派安倍総理」を演出するという企みだ。「後退」を「改革」と錯覚させる愚劣な茶番劇。国民は、安倍政権とマスコミに騙されてはいけない。

『週刊現代』2013年7月20日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。