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新シリーズ 経営者とは何か 第1回
「社長のクビを切った」東芝・西田会長の決断は正しかったのか

TOSHIBA新社長に選ばれたのは下馬評にない田中氏だった〔PHOTO〕gettyimages

 経営判断ひとつで会社が潰れる。何万という従業員を路頭に迷わすこともある。だから、世間の批判を浴びてでも、非情の決断を下さなければいけない時がある。経営判断が持つ意味は、かくも重い。

会長も辞めるべきなのか

 6月25日、東京・両国の国技館で東芝の株主総会が開催された。株主との質疑応答に入った時のことだ。

「失望している」

 登壇する経営陣に向かって、ある株主がこんな言葉を投げかけた。

 東芝は同日付で、佐々木則夫氏が社長から副会長に退き、副社長だった田中久雄氏が新社長に就く人事をあらかじめ発表していた。しかし、この社長交代人事を巡っては、西田厚聰会長と佐々木氏の対立があったのではないか、内紛ではないのか、との声が渦巻いていた。そうした報道が出ていること自体に、株主から批判が投げかけられたのだ。

「ご心配をおかけして申し訳ございません」

 質疑に応じた下光秀二郎・副社長はこう謝罪を述べた。と同時に、「(今回の人事は)ルールに従って通常通りに決定されたものです」と内紛説の〝火消し〟役も演じて見せた。

 社長交代が発表されたのが今年の2月。いまだその背景を巡って、不信感が燻っていることがうかがえる一幕だった。

 そもそも会長と社長の対立が語られ始めた発端は、今年2月26日に開かれた社長交代会見にある。会見の席上、西田氏と佐々木氏が互いを批判するような異例の発言をしたため、内紛劇が取りざたされたのだ。

 さらに、佐々木氏が財界活動中心の副会長職に就くという人事も波紋を広げた。東芝で副会長職が設けられるのは、上場来初のこと。しかも、会長である西田氏はそのまま会長職に留まるということで、西田氏が主導して佐々木氏を「クビ」にしたように映った。

 そうした中、今年5月、西田会長は本誌に事の真相を語った(6月1日号『東芝のサプライズ人事 西田会長がその全内幕を明かす』)。氏が明かした社長交代人事の背景は、おおむね以下のようなものだった。

「(社長在任時の佐々木氏は)固定費のカットばかりに終始し、将来の事業の芽を摘んだ」

「トップ自らが海外にトップセールスに出向くべきなのに、社内で会議ばかりしていた」

「それなのに、(佐々木氏が)社長をまだ続けたいと言い出したため、それは許容できなかった」

「自分が会長に残るのは、東芝を再び成長軌道に乗せる体制を作り直すためである。1年でそれを成し遂げて、相談役に退く」

 売上高6兆円、従業員20万人という巨大企業の会長が語るには、ずいぶんと赤裸々な内容である。西田氏は本誌の取材に応じた理由を、「皆さんには東芝社内の実態が見えませんし、誤解されていることもあるので、私は事実を事実として説明します」と語った。

 しかし、冒頭で見たように、いまだ事態が沈静化していないのは、西田氏が下した経営判断が正しかったのかどうか、賛否両論が交錯しているからである。いま一度、東芝の異例の社長交代劇を考えることで、経営とは何なのか、という素朴ながら究極的な問題を考えてみたい。

 ポイントは3つある。

1 自らの後継者として佐々木氏を抜擢した西田氏には任命責任はないのか。佐々木氏が社長職を降りるのに、西田氏が会長に居座るのはおかしくないのか。

2 佐々木氏は社長時代に、赤字からV字回復を成し遂げた功労者である。在任中は利益も出し続けたのに、どうして社長の座を降りなければいけなかったのか。

3 そもそもこれで東芝の経営は良くなるのか。社長を代えただけで経営は良くなるものなのか。

 言い換えれば、1は「経営者の責任の取り方」、2は「経営者の評価方法」、3は「社長交代のあり方」の問題である。いずれも経営とは何か、ということを考えさせられる重要なテーマだ。

 まず1について、サラリーマン感覚で見ると、西田氏が会長に居座るのは虫が良すぎるので辞めるべきと思いがちだが、実はそれは経営判断とはいえない。

 実際、経営に携わったことのある実務家や経営を知り尽くしたプロたちに聞くと、「自らも会長を辞めるべき」という答えは返ってこない。では、西田氏はどうするのが正しかったのか。

「社長が気に入らなかったのなら、自分が社長に戻るべきでした」

 そう言うのは、元マイクロソフト日本法人代表の成毛眞氏である。

「ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正さんは、いったん会長に退いた後、社長の手腕が気に入らず、自分が社長に戻ることで経営を立て直しました。これが正しい経営判断。だから、西田さんは社長が気に入らないんだったら、社長のクビを切って、自らが社長に戻るべきでした。その覚悟がないなら、社長人事に口など出すべきではない」

 評論家の佐高信氏もまったく同じ意見だ。

「ホンダの創業者である本田宗一郎さんが社長を辞めた後は顧問に退いたように、社長は辞めたら会社から去るべきです。会長に残って、社長のやることに口を出すのも論外。言いたいことがあるなら、自分で社長をやるしかない。社長に戻るか、黙っているか。選択肢はどちらかでしかないのです」

 もし抜擢した部下が成果を上げなかった時、その責任をどう取るか。想像してみると、成毛・佐高両氏の発言の意味がよくわかる。

 自分も責任を取って辞めるのは確かに潔いが、それは見方によっては「逃げ」である。結局は自らの経営判断のミスを、次世代にツケ回しにすることになるからだ。

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