「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第34回】
先輩に「あなたの仕事の技量が低いことが問題です」と発言した

奥村 隆 プロフィール

【第33回】はこちらをご覧ください。

他の人と一緒に仕事をするのが嫌なんです

 「僕は1人でニュースリポートを完璧に作れるんですよ。どうしてカメラマンと編集マンを付けられなきゃいけないんですか!」

 こう言って泣き出したS君を、僕は床にへたり込んで呆然と見上げるしかなかった。いくら隣同士の席で小声で話していても、さすがに彼が泣き出せば、他の同僚たちも異変に気づく。

 とは言っても、S君には、泣きながら会議室を飛び出した"前科"があるだけに、誰もそれほど驚いていないようだった。皆、「またか」という雰囲気で、半ばS君を軽蔑したような、半ば教育係の僕に同情するような視線を送ってきていた。そんなことに気づく様子もなく、彼は相変わらずしゃくり上げている。

 僕は気を取り直して、泣いているS君を促し、一緒に打ち合わせ用の小部屋に入った。なぜ、1人でニュースリポートを制作するのがそんなに嫌なのか、きっちり事情を聞こうと思ったのだ。

 しかし、S君は感情を高ぶらせたまま、早口で「やっぱり編集長は僕のことが嫌いなんだと思います」と言うばかり。こちらの質問など、まったく耳を傾ける様子がない。

 困り果てているところに、部屋のドアが開いて、編集長が入ってきた。先ほどのS君の「編集長は僕のことが嫌いなんだと思います」発言を聞かれなくてよかった・・・と内心ホッとしていると、編集長は僕の隣の椅子にドカッと腰を下ろし、単刀直入に切り出した。

 「おいS、今ちょっと他の連中に聞いたけど、お前、カメラマンと編集マンを付けられるのを嫌がってるらしいな」

 「嫌です」

 さすがに目の前に編集長が現れると、S君は泣くのをやめ、うつむいたまま短く答えた。この前のトラブルで編集長に迷惑をかけたことが脳裏をよぎったのか、あるいはまったく忘れてしまっているのか、それはわからなかった。

 「どうして嫌なんだ? カメラマンや編集マンが付くと、制作マンはみんな喜ぶのが普通だぞ。やっぱり彼らは本職だからスキルがあって、番組のクオリティを上げてくれるし、お前にかかる時間と労力の負担も減るじゃないか」

 「そんなこと、どうでもいいんです」

 「どうでもいいって?」

 ここでS君は顔を上げて編集長を見た。表情から先ほどの興奮の色は消えていたが、そのかわり目元には、「梃子でも動くものか」と言いたそうな頑固で剣呑な雰囲気が漂っている。

 「僕、自分以外の人間と一緒に番組を制作するのが嫌なんです。カメラマンや編集マンがいなくても、僕はきっちり番組を作れます。なぜ無意味で嫌なことを、わざわざやらされなければいけないんですか?」

 「お前が1人できっちり仕事ができるというのは、この前、お前が作った5分間のニュースレポートを見てよくわかった。取材力も映像センスも良い。その力量は認めよう。

 でもな、カメラマンや編集マンの力を借りれば、さらに良いものができるようになるんだ。だから、今回はカメラマンと編集マンと一緒にレポートを作ってみなさい。

 これは、お前の勉強にもなるんだぞ。今回はまだ7分だから、お前だけで何とか作れるかもしれない。しかし、この仕事をしていれば、いずれ、もっと長尺の番組を制作する日が来る。そのときに、とても1人ですべてを作ることはできないんだからな」

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