自民党本部と沖縄県連の「ねじれ」
辺野古への移設推進の安倍内閣 参院選後の混乱は必至[普天間]

普天間飛行場に着陸するオスプレイ=沖縄県宜野湾市で12年10月1日

 住宅や学校などが密集する地域にあり、「世界一危険な基地」と言われる沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場。その移設先をめぐり、自民党沖縄県連が党本部の方針に反する公約を掲げて参院選に臨んでいる。党本部は米国との合意事項だとして同県名護市辺野古への移設を推進する一方、県連側は辺野古への移設は基地負担軽減を求める「オール沖縄」の意思に反すると主張し、参院選の地方版公約でも「県外移設」を掲げた。それぞれが抱える事情を考慮して一本化を先送りした格好だが、いずれは結論を出さざるを得ない。参院選後の混乱は避けられそうにない状況だ。

 日米両政府は今年2月の首脳会談で、辺野古移設の早期実現を目指す方針を確認している。安倍政権にとっては、沖縄県・尖閣諸島への挑発を続ける中国をけん制するためにも、日米同盟の強化は喫緊の課題。同飛行場の移設方針は両政府による合意からすでに17年が経過しており、早期実現を図ることで米国からの信頼を得て、日米同盟の強化につなげたい考えだ。

 こうした問題意識は自民党本部も共有しており、石破茂幹事長は「日米合意の着実な実行、普天間の危険性の早期の除去について方針が変わることはない」と繰り返している。

 ところが同じ自民党でも、沖縄県連は正反対の立場だ。「ウチナーンチュ(沖縄県民)の声を代弁して、県外を求めてまいりたい」。参院選沖縄選挙区の自民党公認候補者は5月末に開いた出馬表明会見で、普天間飛行場の「県外移設」を政府に求めていく考えを表明。自らのウェブサイトにも「(普天間飛行場の)県外移設を求め、固定化阻止に取り組みます」と明記した。

 こうした姿勢は、政権と歩調を合わせて米軍基地を受け入れる一方、国から沖縄振興策を引き出してきた自民党県連のもともとの姿とは大きく異なっている。実際、県連は日米両政府が移設先を辺野古に決めて以降、普天間飛行場の危険性除去、そして名護市を含む県北部の振興策推進と併せて辺野古移設の必要性を訴えてきた。

 しかし、09年の総選挙で沖縄選出の衆院議員がゼロになり、「最低でも県外」を掲げる鳩山由紀夫民主党代表(当時)が首相になると、県民からの評判が良くない辺野古移設を訴え続ける意義を見いだせなくなる。結局、翌年には「県外」へと方針を転換。その後の地方選挙や国政選挙では、辺野古移設が争点化する事態を避けながら「県外」を求める県民世論の受け皿となり、昨年12月の総選挙では沖縄から4人の衆院議員を送り出すことに成功した。

進まない「危険性除去」

 そして迎えた今回の参院選。党本部からは辺野古移設に回帰するよう強く求められたが、対抗馬である沖縄の地域政党・沖縄社会大衆党の候補者が「県外」を強くアピールしており「県外への移設はすでに『オール沖縄』の声。辺野古移設を掲げた瞬間に勝ち目がなくなる」(自民党県連幹部)と判断。党本部の反対を押し切り、これまでと同様に「県外」を求める道を選択した。

 とはいえ、県連にとっては「県外」の追求とともに、移設問題の原点である普天間飛行場周辺の「危険性除去」も緊急性のある重要課題だ。「県外」に固執することで移設そのものが進まなくなり、結果的に普天間飛行場が固定化されてしまうのではないかとの懸念は根強い。このため、自民党の政権復帰を機に、県連内の一部で辺野古移設容認へ回帰する動きが出始めている。

 また、辺野古移設への道を完全に閉ざさないためにも、今回の参院選で「県外」を掲げる必要があるとの意見も存在する。辺野古移設をめぐっては今年末以降、工事に必要な沿岸部の埋め立ての可否を仲井真弘多沖縄県知事が判断する見通し。今回の参院選はその判断の前に全県で行われる最後の選挙となる可能性が高く、仮に辺野古移設が争点化すれば、選挙結果が知事の判断に決定的な影響を与えかねないからだ。自民党関係者は「党本部も県連も『参院選で辺野古移設を争点化させれば、すべてが終わってしまいかねない』という認識は共有している」と打ち明ける。

 さまざまな思惑があるものの、表面的には異なる主張を掲げながら参院選に突入した自民党本部と沖縄県連。焦点は参院選が終わった後、県連が普天間飛行場の移設問題に関してどのような対応を取るかだ。政府・党本部が辺野古移設の方針を取り下げるとは考えにくく、県連がこれまでと同じように「県外」を主張し続ければ対立は決定的となり、最悪の場合は本土と沖縄の対話のパイプが断絶してしまう恐れがある。逆に県連が辺野古移設容認に転じれば、「県外」主張は選挙目当てだったとの批判は免れず、県民の信頼を大きく損なう可能性が高い。

 政府は普天間飛行場に配備されている垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの訓練の本土移転や、米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)より南にある米軍施設・区域の返還作業を進めることで、沖縄の負担軽減に取り組む姿勢をアピールし、辺野古移設への沖縄県民の理解を得たい考えだ。だが、県連全体が辺野古移設に回帰できるような環境が整う見通しは依然として立っていない。

「沖縄県民は目覚めました。もう元には戻りません」。県連に強い影響力を持つ自民党出身の翁長雄志那覇市長は、今年1月に開かれたオスプレイ配備反対集会でのスピーチをこう切り出し、本土の側が沖縄の声に耳を傾け、基地問題に関する方針を変えていくべきだと主張した。ところが半年が経過した今でも、政府・党本部が方針転換する兆しは見られない。県連はこのまま進み続けるのか、それとも約束を翻して「元に戻る」のか。難しい判断を迫られることになる。

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