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アップル社CEOティム・クック氏〔PHOTO〕gettyimages

 米国でアップル社が法人税を逃れているとして批判されるなど、いま世界的に企業の「租税回避」に注目が集まっている。

 アップル社を追及しているのは、大企業の巨悪を暴くとして有名な米上院常設調査小委員会。米上院の調査報告によると、アップル社は、4%の従業員と1%の顧客しかいないアイルランドの子会社に、少なくとも過去4年間海外利益の3分の2に及ぶ740億ドル(約7兆4000億円)を移転し、数十億ドル(数千億円)に及ぶ法人税の支払いを回避したとされる。

 これに対し、アップル社のクック最高経営責任者(CEO)は、グループ内の配当という形での資金供与は米国の法律では課税対象ではなく、すべて合法的な税務処理であると反論、米国の法人税が高すぎると主張した。海外資金移転に利用された子会社の一つは1980年に設立されたもので、これまで合法的に運営されてきたことも明らかにされた。

 イギリスでは、スターバックス社がやはり国際課税で問題になっており、欧州でも租税回避が重大な政治問題になっている。米上院はマイクロソフト社やヒューレット・パッカード社もヒアリングするかもしれないような状況で、アップル社だけの問題ではなくなっている。

 欧米各国ともに大規模な租税回避に対して厳しい見方をする一方で、企業誘致のために法人税引き下げを行う国は後を絶たない。そうした中で、グローバル企業が税率の低いところに資金を移転させるのは当然の動きだろう。では、今のようなグローバル企業の租税回避とそれに対抗する各国の法人税減税競争が世界的に広がっていくと、どのような帰結が待っているのか。

 理論的な一つの見方は、「底辺への競争」である。これはゲーム理論の囚人のジレンマによって説明されるもので、各国ともに法人税を引き下げて企業を誘致すると、本来必要な税収まで失われるというものだ。

 別の見方もある。租税理論からみれば、法人税というのはそもそも「二重課税」になっているため、実は各国が法人税を引き下げるのは当然。理論的には、個人段階ですべて課税できれば法人税は不要だが、実際には個人段階の課税は不徹底なので、法人税を課す必要があるという考え方だ。この点で、グローバル時代の法人税減税競争は、個人段階の税捕捉を進める一方で、二重課税を排除するために不可避となる。

 欧米各国が法人税を引き下げられるのは、国民総背番号や歳入庁の制度が整っていて個人段階の税捕捉が可能なためともいえる。つまり、「二重課税排除」の観点から法人税減税を行えるのであって、減税競争との観点は本質的でない。

 ところで、日本でもいま、安倍政権が法人税減税に前向きな姿勢を見せていることは周知の通りであろう。さっそく「底辺への競争」には参加すべきではないと批判する識者が出ているが、実はこの反論には決定的な欠陥がある。

 日本の場合、国民総背番号もまだなく(マイナンバー法案は衆院を通過)、歳入庁もできそうにない。となると、日本の法人税はあまり下げられない。少しばかり下げたところで、企業は日本に集まるのかという問題もあるが、法人税下げの国際競争に参加する以前の問題として、国民総背番号と歳入庁で日本が世界に遅れをとっているからだ。

 こうした事実を鑑みるなら、本当は「参加しようにもできない」のが実情なのである。

『週刊現代』2013年7月13日号より


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