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国民的大議論にいよいよやってきた 年金制度廃止 私はこう考える【第4部】財政赤字が消える【第5部】もらえるまでもらおう
AIJの浅川和彦氏は詐欺容疑で逮捕された〔PHOTO〕gettyimages

第4部 財政赤字が消える
実は「年金廃止」のメリットはこんなにある

 年金を廃止することで、国民にはどんな"恩恵"があるのか。最大のメリットは、消費税の増税を食い止めることができることだ。これは論を俟たない。

 消費税は来年4月に8%、2015年10月に10%への増税が予定されている。増収分は、増え続ける一方の社会保障費に充てられる。総額13・5兆円。現在、基礎年金の支給総額は年間約20兆円で、その半分のおよそ10兆円が税金でまかなわれている。公的年金を廃止してしまえば、消費増税分を大部分まかなえるというわけだ。

 そして、公的年金を廃止すれば、サラリーマンは月々支払ってきた社会保険料を自らの手で管理できるようになる。

 たとえば月額報酬が30万円の場合、毎月約5万円の厚生年金保険料を労使折半で支払っている。単純に40年間保険料を支払うとすれば、総額は2400万円。

 ここまで見てきたように、厚生年金は支払った額よりも受給額が少なくなる可能性が高く、カネをドブに捨てるようなものだ。だったらその分を自分で貯金するもよし、投資するもよし、子供の教育資金として使ってもいい。

 そもそも、なぜ自らの貴重な老後資産を、悪名高き年金官僚たちに委ねなくてはならないのか。

 顧客から預かった資産2000億円を溶かしたAIJ事件を記憶している方も多いだろう。AIJ投資顧問による被害の多くは、国の年金を代行して運用する厚生年金基金の損失だったという。

 約560ある厚生年金基金には、旧社保庁のOBが多数天下ってきたという現実がある。年金制度の知識はあっても、資産運用に関しては素人同然の天下り職員が、企業の年金資産を預かることの危うさを、この事件は浮き彫りにした。冷静に考えればありえない高利回りを謳うAIJの勧誘に、数多くの厚生年金基金の担当者がコロリと騙されたのだ。

 元財務官僚で、嘉悦大学教授の高橋洋一氏が話す。

「厚生年金基金は官僚が天下って管理して来ました。税金のように保険料を徴収して、官僚が財テクをして、失敗してきたわけです。公的年金制度がなくなれば、そんな官僚に預けないで、自分たちで運用できるようになる。たしかに自己責任にはなりますが、官僚に好き勝手にやられて、損をしても文句しか言えない仕組みよりはいいと思います」

 AIJによる巨額の年金消失を受け、6月19日、財政が悪化している厚生年金基金を解散させる法案が成立した。約560の基金のうち、9割が存続を認められなくなる見通しだ。

 解散を命じられた基金では、厚生年金に上乗せ支給される企業年金が減額されるおそれがある。預けたサラリーマンになんら非がないにもかかわらず、年金が削られる。こんなリスクを抱えるくらいなら、年金制度は廃止したほうがいい。

 だいたい、厚生年金基金の解散で年金官僚が心を入れ替え、公平な制度に生まれ変わる見込みもない。

「彼らの姑息さというのは根本的に変わっていない」

 と指摘するのはジャーナリストの岩瀬達哉氏だ。岩瀬氏は、旧社保庁が年金を流用して保養施設『グリーンピア』などを作っていたことをはじめ、数々の年金官僚の不正を明らかにし、現在は社会保障審議会日本年金機構評価部会の委員も務める。

「評価部会で年金事務所の窓口対応などについての覆面調査の結果が提出されたんです。その結果が良い。たとえば職員の説明についての満足度が92・1%となっており、これで年金機構は、『民間企業よりも満足度が高い』と胸を張っています」

年金官僚が世の中から消える

 しかし、この調査結果には大いに疑問があると、岩瀬氏は続ける。

「全国に312ヵ所ある年金事務所と51ヵ所の年金相談センターを本当に回ったのでしょうか。とてつもなく手間のかかる仕事なのに、年金機構は900万円で外部委託し、その調査は宿泊を伴わなかったと言っているんです。私は6月11日の評価部会で、元データを要求したのですが、10日経ってもうんともすんとも言ってきません。

 こんな不透明な運営を続け、国民から預かった年金資産を法律に基づいて支給できないのであれば、年金機構のあり方を真剣に検討すべきです。国税庁と一体化したほうが、まだいいかもしれません」

 とかく、年金制度はわかりづらい。国民年金に厚生年金、第3号被保険者制度(いわゆる「主婦の年金」)や遺族年金—。あなたは自分が社会保険料をいくら払い、何歳からどれだけもらえるか正確に把握しているだろうか。一目でわからない複雑さそれ自体が制度としての欠陥であり、それが年金官僚の不正の温床になってきた。ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏もこう提案する。

「年金は可能な限りシンプルにするべきです。極端に言えば、厚生年金は廃止して、収入に関係なく一律の保険料を払えば、定年後に最低限の生活ができるくらいには保障する制度でいいのではないでしょうか。その代わり、自助努力に対しては税金を優遇するなどのインセンティブを与える。それが一番シンプルで国民の納得感が得られると思います」

 そもそも年金のみに頼って老後を暮らそうと思うことが、後ろ向きの人生だ。年金制度がなくなれば、新しい生き方ができると、東レ経営研究所特別顧問の佐々木常夫氏は話す。

「日本人は年金をもらうのは当たり前と思っていますが、しかし戦前の日本には年金制度はなかった。それまでの日本人は、死を迎えるまで働いていたのです。

 今の年金制度がアテにならなくなってきましたが、私は決して悲観していません。今後、日本人は年金に頼らない生き方ができるようになります。日本では少子高齢化で、あらゆる職種で人が足りなくなっており、2030年には約1000万人も労働者が減少すると言われています。つまり高齢者にも仕事はある。それに備えて個々人がスキルを身に付けることが必要です」

 年金制度の廃止は、老後を脅かすデメリットだけではない。日本人に新たな生き方を提示する、その契機となるのである。

第5部 もらえるまでもらおう
廃止なら「繰り上げ受給」がいまは得です

「70歳まで年金を我慢すれば、もらえる額が増えると聞いて私もそうするつもりでしたが、やっぱり63歳からもらうことにしました。月額5万円足らずの国民年金でも、趣味の園芸費用の足しになるかなと。友人には60歳から年金をもらっている人がいますが、それを旅行費用の足しにしているようでなんだか羨ましくて」(63歳男性・自営業)

 基礎年金(国民年金、および厚生年金の定額部分)の支給開始年齢は65歳。厚生年金(報酬比例部分)も、65歳まで引き上げられる。

 だが、国の定めにしたがって65歳まで年金支給を待っていることはない。自分で希望すれば、基礎年金の受給開始年齢を60歳からに繰り上げられるし、逆に70歳まで繰り下げることもできるのだ。

 もちろん、65歳まで支給年齢が引き上げられる厚生年金の場合も、1ヵ月単位で繰り上げられる。

 繰り上げ受給の手続きは、最寄りの年金事務所にある「繰上げ請求書」に必要事項を記入して提出するだけと簡単だ。

 60歳から「繰り上げ受給」をするメリットのひとつは、定年を60歳で迎える人の場合、65歳になるまでの無年金・無収入期間を解消できることである。体が丈夫なうちに、自由に使える"軍資金"が入ってくるというのは大きい。

 もちろん、デメリットもある。受給開始時期を最大60歳0ヵ月まで、1ヵ月早めるごとに、受給額は0・5%ずつ減額される。

 また一度、繰り上げ受給を始めると、取り消しや変更は一切できず、生涯にわたって増額されない。65歳前に重度の障害を負っても、障害基礎年金を請求できなかったりもする。

 繰り上げとは逆に、繰り下げ受給を選択した場合には、1ヵ月遅らせるごとに0・7%ほど増額される。

「繰り上げ受給を選び、60歳から年金を受け取るようにすると、65歳から受け取るよりも、支給額は月額で3割ほど減ります。逆に、1年繰り下げて66歳から受け取るようにしただけでも、毎月8・4%ほど受け取る額が増えるんです。

 55歳から60歳の間に、年金のことをよく考え、繰り上げ、繰り下げをするかどうか決めておきましょう。いつから年金をもらうかを安易に決めてはいけません。これからは長生きすることがリスクになる時代ですから」(ブレインコンサルティングオフィス代表で社会保険労務士の北村庄吾氏)

 では、実際に年金はどれくらい受け取れるのだろうか(左図も参照)。65歳時にもらえる基礎年金額は年額78万6500円、月額約6万5540円である(保険料を40年納めた場合の満額)。

 それに対して、60歳に繰り上げて受給する場合は、そこから3割減額されるので、年額55万550円、月額約4万5880円。その差は年額約23万6000円、月額約2万円となる。

 もらえる年金の累計総額については、最初は繰り上げ受給をした人が多いが、65歳で受給を開始した人に、76歳の時に抜かれる。

 累計総額で損得を計算すると、結果的に、76歳以前に死亡した人にとっては、60歳で受給開始のほうが得で、それより長生きした人には、通常の65歳受給が得ということになるのだ。

 90歳、100歳と生きるにつれて、累計受給額の差はどんどん開いてゆくので、巷ではしばしば、繰り下げ受給のほうが絶対に得であると説かれている。

 しかしその議論はあくまでも、年金制度が破綻したり廃止されたりしない万全なものであることが前提となっているのだ。

 年金制度は廃止される寸前まで来ている。それは遠い未来ではない。

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