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国民的大議論『年金制度廃止』私はこう考える【第2部】現実問題としていつ何が起きる【第3部】現役世代はこんなに怒ってる
ギリシャでは年金をめぐり、大規模なデモが発生した〔PHOTO〕gettyimages

第2部 現実問題としていつ何が起きる
年金制度どうやって廃止されるのか

 20XX年、時の厚労省事務次官は天を仰いだ。

「ついにこの日がやってきたか……」

 それまで何とか、多額の税金を投入して維持してきた公的年金が、どう試算しても、これまでどおりに支給することが不可能になったのだ。ついに年金財政が破綻した。永遠に続く経済成長を前提にした公的年金制度がいずれ行き詰まることは、'70年代からわかっていた。だが、歴代政府と厚労省は詳細なデータ開示を頑なに拒み、内部で代々、"時限爆弾"をたらい回しにしてきた。いま自分の手の中で炸裂した不運を次官は嘆いた。

 次官は官邸に駆け込んだ。

「終わりです。年金積立金は1年で底をつきます」

 報告を受けた首相は、はじめ憤怒し、財務省事務次官にその場で連絡。しかし、増税をしなければ、年金に回す財源はないと即答された。そしてすぐに青ざめた。

「もうこの国に、カネなんてどこにもない」

 このとき、消費税率はすでに20%にまで引き上げられていて、現役世代からは年収の3割を社会保険料として徴収している。年金支給開始年齢も70歳に引き上げて久しい。もはや所得税率と法人税率を大幅に引き上げることしか財源を確保する手立ては残されていない。だが、当然、大増税には世論からすさまじい反発が湧き上がった。

「百年安心という話はどこへ行った!」

「まず政治家と官僚を全員クビにしろ!!」

 内閣は国民年金法の改正案を提出することさえままならず、解散総選挙に追い込まれる。

 解散に際して、与野党の若手議員が公約に「年金制度の抜本改革」を掲げる政党『年金改革の会』を旗揚げ。「一時的に年金受給額を80%カットする」などの主張を展開し、現役世代から絶大な支持を誇った。

 その一方、すでに年金を受給している高齢者からは激しい抵抗が始まった。

「老人は死ねというのか」

 悲憤と絶望のあまり、国会議事堂前で焼身自殺を図る者も出た。世代間闘争は激化の一途を辿り、各地では連日のように暴動が発生した。

 こうした事態を受けて、日本国債は暴落し、株式市場にも売りが殺到、記録的な大暴落を招いた。日本市場は株、債券、為替のトリプル安に見舞われ、「年金ショック」の直撃を受けた。

 企業の倒産が急増し、町には失業者があふれ、生活保護の申請が激増。大不況と社会不安で税収はますます減る中、逆に社会保障のためのコストは拡大の一途を辿る。日本は完全に、戻ることのできない負のスパイラルに陥った。怒号と悲鳴が渦巻く総選挙の結果、『年金改革の会』は政権を奪取したが、もはやすべてが手遅れだった。

 新首相が最初に下す決断は、たった一つだけ。

「諸悪の根源である年金制度を完全に廃止する。日本再建のために、選択肢はもうそれしかないのだ」

 こうして日本から、年金制度は完全に消滅した—。

 これは"シミュレーション"である。しかし、決して絵空事ではない。近未来の日本で確実に起こりうるシナリオだ。実際、ギリシャでは同様のことが起こっている。財政破綻したギリシャは年金カットを行うと国際社会に約束。悲観した77歳の男性が、

〈生きるためにゴミあさりを始める前に、威厳ある最期を迎えるしかなかった〉

 と書き置きを遺し、拳銃自殺した。現在も国会には大規模なデモ隊が押し寄せている。ギリシャの株式市場はこの6月、「先進国」から「新興国」に格下げされた。

 実際に日本の厚労省も、2031年に厚生年金の積立金は枯渇すると試算している。「年金消滅」は、現実のものとして、すぐそこまで迫っているのだ。ライフカウンセラーの紀平正幸氏が解説する。

「'04年に行われた年金改革は、『百年安心』と謳われましたが、それは実質経済成長率0・8%、物価上昇率1%、名目賃金上昇率2・5%、積立金の名目運用利回り4・1%という条件のもとに試算されたものです。現実とはかけ離れた数値を前提条件としたのですから、年金制度が成り立たなくなるのはわかっている。それなのにそのことをはっきりと国民に説明せず、最近は支給開始年齢を引き上げて68歳にすることを検討するなど、財源不足のシワ寄せを国民に押し付ける形で辻褄を合わせようとしています」

 積立金が枯渇するとした厚労省のデータは、'09年から過去10年の実績の数字をもとに計算したもの。「百年」どころか、実はあと20年足らずで金庫が空になってしまうというのだ。

 現在、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が管理する積立金は111兆円。団塊世代など、受給世代の増加で、年金支払いに充てるために、毎年約6兆円を取り崩している。

 積立金が現在の20%を切ったとき、日本の年金制度は破綻すると仮定しよう。残された猶予はわずか約15年。2028年、そのときいったい何が起こるのか。

1割以下しか戻ってこない

 東京都内に住むサラリーマンのAさんは、40年間同じ会社に勤め、厚生年金保険料をずっと払い続けてきた。このときちょうど65歳で、現役時の平均年収が600万円として、支払った保険料の総額は960万円に上る。

 だが、年金破綻がアナウンスされ、残った積立金を40年支払った65歳以上の加入者で分配し、現役世代は別途新制度で対応することになった。このときの65歳以上の人口は約3500万人。自宅に届いた最後の「ねんきん特別便」には、Aさんが受け取れる「年金清算金」は、63万4000円とあった。1割にも満たない額しか戻ってこなかったのである。

 受け取りは全国の年金事務所が指定された。Aさんに限らず、数多くの中高年が怒りに打ち震えながら、長蛇の列をなす。その脇には、一銭も受け取ることのできなかった現役世代が高齢者を罵倒するデモを繰り返している。まさに悪夢のような光景だ。

 われわれは、座してXデーを待つしかないのか。作家の橘玲氏は、「今のまま騙し騙しで破綻する日を待つしかない」と言う。

「現在の制度で国民年金の利回りを計算すると年利1・5%(女性は2・4%)ですから、超低金利の中ではそれほど悪い金融商品とは言えません。ただ、この計算は65歳から年金が支給される前提で、支給開始が70歳まで繰り下げられると、男性の場合、40年かけて811万円積み立てても年金の平均受給額は839万円にしかならず、保険料を支払う意味がなくなってしまいます」

 多くの若者はもう気づいている。すでに国民年金の保険料の未納率は4割を超えた。今後、さらに未納者が増えていくのは避けられない。橘氏が続ける。

「そこで厚労省が考えたのは、国民年金を維持するために、個人の意思で離脱できない厚生年金に加入するサラリーマンの負担を増やして肩代わりさせる方法です。『厚生年金は会社が保険料の半分を払っていて得をしている』と言われますが、これは明らかに詭弁です。会社負担の保険料は人件費の一部で、本来は給料としてもらえるはずのお金です。すでに今の50歳以下は利回りがマイナス、実質『元本割れ』となっているのです」

 若いときから保険料を払い続ければ、老後は払った額以上の年金がもらえるというのは、厚労省がつくった"幻想"にすぎない。

「そんな年金制度なら必要ない」と断言するのは、早稲田大学政治経済学術院教授の原田泰氏だ。パニックを起こさないように年金を廃止するにはどうすればいいのか。

「すでに40年間保険料を払った人の場合は、支給額を減らすしかありません。まだ払っている最中の人には、払った分を返して、それとは別に税金で最低保障金をつくる。それしか方法はありません」

「年金があるから老後はある程度は安泰」という時代は終わった。結局、頼りになるのは自分自身しかいないのである。

第3部 現役世代はこんなに怒ってる
「それでも年金制度を続ける」派VS.「もうやめろ」派の大激論

「残念ながらいま、50歳以下の世代の老後は、カネのある人やスキルのある優秀な人は生き残れるけれど、そうでない人はお先真っ暗というのが実情でしょう」

 そう語るのは、世代間の格差に詳しい人事コンサルタントの城繁幸氏だ。

 受給開始年齢が65歳に上げられた矢先に出てきた、さらなる引き上げ案。受給を間近に控えた世代からすれば到底承服しがたい内容だろうが、明治大学政治経済学部の加藤久和教授は、それでも65歳以上の受給者は恵まれているほうだという。

「いま年金の支給を受けている65歳以上の人たちは、"逃げ切れる"でしょう。悲惨なのはその下の世代です。上の世代のツケをどっさりと被ることになります」

 大きなツケ。それを端的に示す数値がある。次ページのグラフを見てほしい。

 これは第1部に登場した学習院大学の鈴木亘教授による、厚生年金の世代別の損得試算だ。グラフ内の数値は、1940年から2010年の間に生まれた各世代が平均寿命まで生きたとして、「生涯に受け取る年金の総額」から「生涯に支払う保険料の総額」を差し引いた額を表す。

 1940年生まれの世代は払った保険料よりも受給した年金の額のほうが3090万円多い。それが1955年~1960年に生まれた世代では、損得がほぼプラスマイナスゼロになり、以降一貫して右肩下がりが続く。2010年に生まれた世代に至っては、この先支払う保険料と受給額の差はマイナス2840万円。1940年生まれの世代と比較して、なんと5930万円もの差が生まれている。

 払えば払うだけ損をするのなら、払わなければいい—。実際、国民年金に限れば特に若年世代の未払い率は高い。30~34歳は49・6%、25~29歳にいたっては46・1%しか払っていないのが現状だ(厚生労働省による'11年度の納付率)。

 28歳ながら気鋭の社会学者として活躍する開沼博氏もまた、「年金制度に期待はしていない」と語る。

「いわゆる逃げ切った世代に対しては、自分たちが得した分は返して去って行って欲しいという思いはあります。ただそれも財政が良くない状況では、難しいのかもしれませんが。私は自分の人生設計のなかで年金は当てにはしていません」

 そもそも制度に期待していないという人がいる一方、払いたくても払えない若者もいる。前出の加藤教授は、「とりわけ30代の置かれた状況は厳しい」と語る。

「国民年金未納者も多いですが、非正規雇用の労働者の割合も高いですから、働いても所得が低くて貯蓄もままならず、老後の備えがまったくできないという人たちが増えている。いまのままだと低年金・低貯金の若者たちが将来的に大挙して生活保護を受けることになる可能性もあります」

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