官々愕々
「霞が関完全復活」作戦の全内幕

 アベノミクス第三の矢、成長戦略は全く的外れなものとなった。中でも、「一丁目一番地」の規制改革は、見るも無残な結末だった。異例の高支持率を誇る安倍自民党としては、多少の批判は受けても、農協、医師会、電事連などの既得権団体に恩を売って、来月の参議院選挙で支援を受けた方が得策だと考えるのは自然だ。当然、強い批判にさらされると思ったが、意外にもマスコミの批判はあまり鋭くない。当然、国民の反発も、事態の深刻さに相反し、それほど強くない。

 何故、こういう事態になるのか。

 実は、「霞が関完全復活」作戦を遂行する官僚達が暗躍しているのである。もちろん、彼らのもくろみは巧みに隠されている。表に見えるのは、「改革派リーダー安倍総理」のパフォーマンスだけである。そこには、官僚たちの驚くべき「騙しのテクニック」が展開されている。一般の方には信じられないかもしれないが、役人を長くやっていた私には、それが手にとるようにわかる。

 官僚による成長戦略つぶしは、安倍政権誕生と同時に始まった。産業競争力会議と規制改革会議の委員の人選で勝負はついたと言ってもよい。改革したければ、半数は戦えるメンバーにしなければならない。それでも、官僚に搦め捕られる委員が出てくるのが現実なのだが、実際には、真の改革派と言えるメンバーはそれぞれ2名程度。事実上官僚に選ばれた他の委員は、官僚とあえて闘う勇気のない人か、喜んで官僚の言いなりになる人達ばかりだった。

 このコラムでも取り上げたが、第二段階は、会議を非公開とし、電話会議による出席を禁止したことだ。これで官僚主導路線は確定した。改革派で売っている某女性委員が官僚の振り付け通り、非公開を主張したのを皆さんはご存じだろうか。

 既得権と闘う際のカギは、国民の支持だ。その前提として、誰がどのように改革を拒んでいるのかを国民が知らなければならないのだが、そこを官僚が押さえ込んでしまった。
 その後は、記者たちの相場観を操ることが官僚の仕事になる。改革の本丸からどうやってマスコミの目をそらすか。彼らは、一般用医薬品のネット販売「解禁」を成長戦略の目玉に仕立て上げる計略を立てた。その代わり、改革の本丸は、規制改革会議の検討課題にも入れない。初回会合後、ある改革派委員は「目玉は薬のネット販売。それ以外は何も出ませんよ」と予言していた。

 その後の展開は官僚の筋書き通りだった。楽天の三木谷氏を改革派代表に仕立て、これに自民党厚労族議員が抵抗する大バトル劇。最後は、安倍総理の「強力なリーダーシップ」により「解禁」が決まったという報道が大々的になされた。元々、ネット販売規制そのものは最高裁判決で違法とされ、現在でも完全解禁の状態にある。これを追認するのが、何故「解禁」なのか。高リスク25品目については、今後条件が課されるのだから、逆に規制強化だ。マスコミはまんまと官僚の術中にはまった。

 官僚にも誤算はあった。マスコミより賢い市場からNOを突きつけられたことだ。しかし、官僚は直ちに対策を講じた。それが、「秋」に決まる設備投資「減税」だ。それも先週号で指摘した通り、官僚の利権獲得策そのものでしかない。

 今後は、農業などの改革の本丸に切り込まないことへの批判などに対して、いかにも秋にはやりますという類の情報が次から次へと提供されるだろう。「マスコミは馬鹿だし腰抜けだから、嘘と脅しでどうにでもなるよ」と豪語する官邸官僚の姿が目に浮かぶようだ。

『週刊現代』2013年7月6日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。