生活保護報道を振り返る---無謬の人、自己責任で生きられる人が、いったいどれほどいるだろう?

 「無謬」とは、理論や判断に間違いがないという意味だが、それを実現できる人間はいないだろう。どんな偉人であろうが、エラーを犯すことがあるのだから。唯一、自分たちの無謬を信じて疑わないのが官僚たちだとされるが、それは単に間違いを認めたがらないだけだ。

 テレビに出演するキャスターやコメンテーターたちも間違いを犯す。思い込みによる事実関係の誤りや不用意な放言で、その度にキャスターたちは詫びる。大半は謝罪や訂正で済む話だ。過去にはワイドショーの生放送中、本人が伏せていた芸能人の国籍を訳知り顔で明かしたコメンテーターもいたが、その人は画面から消えた。

 個人のセンシティブな情報を明かすのは重大な人権侵害行為だから、それを生放送内で行うようなコメンテーターが追放されるのは仕方がない。半面、明白な間違いではないのだが、キャスターやコメンテーターたちが言い放つ独善的な言葉の影響も気になる。無謬の人はいないからだ。

誰もが自己責任だけで暮らせるはずはない

 その一つは、ちょうど一年前、情報番組とワイドショーの報道が過熱した生活保護問題だ。お笑い芸人の親族が、生活保護を受けていることが発覚すると、こぞって生活保護をテーマとし、不正受給者を槍玉に上げた。生活保護受給者そのものを蔑視するかのような発言も散見された。お笑い芸人に対し、「お母さんが生活保護を受けていて、恥ずかしくないんですか!」と詰問した女性リポーターが典型だろう。

 きちんとデータを検証していない番組もあった。テレビ朝日の女性キャスターは「不正受給はおよそ1割」と説明したが、実際には0.4%。女性キャスターは視聴者に25倍の数字を伝えたことになる。

 生活保護受給者の増加を憂うキャスター、コメンテーターもいたが、一方で、補足率(生活保護基準以下の世帯で、実際に保護を受けている世帯数の割合)は、20%以下に過ぎない。しかも、日本の相対的貧困率は、今やOECD加盟34ヵ国の中でワースト2位なのだから、やむを得ない側面がある。生活保護の報道に熱を入れるだけでなく、貧困の現状や解消も同程度のボリュームで扱うべきではなかったのではないか。

 結局、情報番組、ワイドショーの過熱報道により、誰が得をしたのだろう。少なくとも、行政側にはプラスだったはずだ。思惑通りに予算を削減しやすくなった。厚労省は、2013年8月から保護費を減らす予定で、今後3年間で最大10%削減する案を打ち出している。

 キャスター、コメンテーターたちが国民の社会保障費の削減をサポートするという不可思議な現象が起きてしまった。キャスターたちが国の財政を考えるのは大切なことだろうが、そもそも財政悪化を招いたのは過去の失政や行政の怠慢なのだし、国民の最後のセーフティネットを堅持しようとする姿勢も必要だったのではないか。もちろん、そんなキャスターたちもいたが、その声は過熱報道の中で掻き消された。

 フリーキャスターの辛坊治郎さんも、生活保護問題には熱心だった。『ウェークアップ!ぷらす』(制作・読売テレビ/日本テレビ系)などで、何度か取り上げた。お笑い芸人の問題のあと、にわかに生活保護を語り始めたようなキャスターとは違い、データは正確だし、分析もシャープだった。

 けれど、気懸かりな論調もあった。2011年11月19日放送の同番組で、辛坊さんは、大阪の中小企業経営者から聞いた話として、「人を雇おうと思うと、生活保護費のほうが高いので、賃金競争になってしまうそうです。そんな話が一部であるようです」と語った。生活保護費は最低賃金より低くするべきというのが、辛坊さんの持論だ。

 一面的には正論だ。けれど、それは経営者の立場に沿った見方だろう。生活者の視点で考えれば、最低賃金の方を上げれば良い。日本の賃金はアジア諸国と比べれば高いが、欧米先進国の中では、かなり見劣りする。同じ工業国のドイツと比べれば、驚くほど低い。生活保護費を下げれば、最低賃金は余計に上がりにくくなるはずだ。

 辛坊さんは、大学時代からヨットを趣味にしてきたそうだが、このほど遭難し、海上自衛隊に救助された。自国民の保護・救出は自衛隊の第一義的な職務であるのだから、辛坊さんを責めるつもりは毛頭ない。けれど、同じようにキャスターやコメンテーターたちの職務の一つは、少数派や弱者と呼ばれる同胞を守ることではないか。無謬の人がいないように、誰もが自己責任だけで暮らせるはずはないのだから。

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