「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第32回】
「自分は絶対に悪くない」と思い込み、謝ることができない男

【第31回】はこちらをご覧ください。

泣いて会社を飛び出し、3日連続で欠勤

 入社して初めての企画会議で、自分が提案した企画が編集長から却下され、泣き出してしまった後輩ディレクターのS君。彼が「編集長は僕のことが嫌いなんですね」と言い捨てて会議室を飛び出し、そのまま翌日も欠勤してしまったいきさつは、前回述べた。

 S君はお父さんにも「編集長から嫌われているせいで、自分の企画がボツにされた」と嘘の報告をしており、それは、お父さんが編集長にかけてきた説明とお詫びの電話で明らかになった。

 S君の教育係を命じられた僕は、とりあえず「Sが出社してきたら、冷静に話し合い、なぜ企画会議での彼の言動が不適切だったのか、論理的に説明して聞かせよう」と考えていた。編集長も寛大な人で、「俺もSに注意はしておくけれども、別に腹を立てているわけでもないし、細かい指導は奥村に任せるよ」と言ってくれた。

 ところが、欠勤した日の翌日も、さらに翌日も、S君は出社してこなかった。3日連続で休んでしまったわけだ。

 といっても、さすがに無断欠勤ではない。僕の勤務先では通常、病気や体調不良などで休むときは、午前中、上司が出勤した頃を見計らって電話を入れ、事情を説明して許可をもらうのが一般的だが、S君は違った。3日連続して、朝7時45分ぴったりに、上司の1人であるUプロデューサーの携帯電話に連絡を入れ、「今日は体調が悪いので休みます」と一方的に棒読み口調で告げると、Uさんに聞き返す間も与えず電話を切ってしまったのだという。

 ちょうど3日とも、Uさんは家族と一緒に朝食をとっているところだった。その時間帯に毎日、携帯電話が鳴らされるのだからUさんもいい迷惑だが、3日目になると、奥さんがさすがに不審に思ったようで、こう尋ねてきたという。

 「あなたの部下のSさんって、どうしてこんなに早く、しかも決まった時刻に電話をかけてくるの? 変じゃない?

 しかも休みの連絡を、あなたの携帯にわざわざしてくるなんて、どう考えても不自然でしょ。会社を休む連絡だったら、オフィスの電話にすればいいじゃない」

 「最近入ってきたばかりの奴だから、まだよくわからないんだけど、ちょっと風変わりなところがあるのは事実だな。まあ、几帳面すぎるところもあるんだろう」

 Uさんはこう答えながら、ふと、「どうして俺が女房を相手にSの弁護をしなきゃいけないんだろう?」と首をひねりたくなったという。そしてその日、出社してきたUさんは、さっそく僕をつかまえてこう言った。