『リンパの科学』
第二の体液循環系のふしぎ
加藤征治=著

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“白い血液”の謎を解き明かす。
いのちを支えるもう一つの“水系”――。

躍動する奔流=血液の氾濫を再吸収し、
体内の水分を有効活用するために誕生したリンパ。
心臓のようなポンプは存在しないのに、なぜ流れるのか?
からだのすみずみに分け入った支流は、どこを流れるのか?
血管とともに、生命の維持・進化に
重要な役割を果たす“第二の体液”は、
あなどれない病気である「むくみ」や、
がんの転移にも大きく関わっている。
精緻な解剖学の成果が描き出す、リンパのすべて。

はじめに

「リンパ」ってなに?

 ヒトのからだは約60兆個に及ぶ多くの細胞からつくられており、細胞の内外に多量の水分が含まれています。私たちの身体の大部分は、水でできているといっても過言ではないでしょう。細胞内にある「細胞内液」は、体内の水分の中で最も大きな体積を占めています。

 一方、細胞外の水は「体液」とよばれ、第一に体内を循環している「血液」、第二に「リンパ」、さらに、第三の体液ともいえる「脳脊髄液」があります。これら体液は、臓器内の細胞や組織で構成されている微小環境における物質交換、水分や老廃物などの排出を行い、体内をめぐること、すなわち〝循環〟によって生体の内部環境の恒常性を維持する重要な機能を果たしています。

 それでは、「リンパ」とはいったいどんな体液なのでしょうか? 血液とはどう違うのでしょうか? そして、リンパはどのようにして生じ、どのようにして流れるのでしょうか? これらの疑問はいずれも、生体の成り立ちと働きを考えるうえでたいへん興味深いものばかりです。

「リンパ」とは、まず血液に対比する言葉として、リンパ液のことを示しています。リンパは血管から周囲の組織に漏れ出た成分である「組織液」を吸収したもので、血液に細胞成分(血球)と液体成分(血漿)があるように、リンパにもまた細胞成分(主にリンパ球)と液体成分(リンパ漿)が含まれます。リンパは血液と似てはいますが、やや黄色味を帯びる程度で、赤血球を多く含む赤い血液ほどは目立ちません。古来、〝白い血〟ともよばれてきました。

「リンパ学」におけるリンパは、厳密には、リンパ管の中を流れるリンパ液を指します。しかし、一般の方々はもちろん、医療に携わる人たちでさえ、「リンパの検査」「リンパの摘出」などとよくいいます。リンパということばは、慣用的にリンパ液に限らず、リンパ管やリンパ球、リンパ組織(リンパ節ほか)を含めた広い意味に使われることが多いようです。

 リンパ系といえば、広く組織液を吸収・排出し、不要な老廃物を交換し、生体環境を維持するとともに、全体としてリンパ球やリンパ組織、リンパ器官を含み、生体の免疫機能にも深く関与するものです。