ブルーバックス
『オイラーの公式がわかる』
数学の至宝を知る
原岡喜重=著

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もっとも美しい公式は
もっとも働きものの公式だ

e、sinとcos、それらが虚数単位iで結びついた
簡素で美しい公式が、オイラーの公式です。
「数学の至宝」とも言われるこの公式を
オイラーが発見した道筋と、
この美しい公式の素晴らしい活躍ぶりを、
わかりやすく解説します。

はじめに

 数学の醍醐味の1つは, ものの見方を変えるだけで全く新しい世界が開けてくることです.ときにそれは世の中を変えるほどのインパクトを与えることもあります.本書で取り上げるオイラーの公式はまさにそのようなものの1つで,「ああ,こういうことが関係していたんだ」という驚きと同時に,現代の科学・技術において基盤的な思考方法・計算方法を与えるものにもなっています.

 オイラーの公式は,一見全く異なる挙動を示す三角関数と指数関数を結びつけるものです.そのような離れ業は天才オイラーだから成し遂げられたこと,と降参してしまってもいいのですが,天才であろうと人間ですし,数学は人間の営みですから,その発見の道筋を何とか理解してみたいと思います.

 話の順序が逆になりましたが,オイラーを紹介しましょう.レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)は1707年にスイスのパーゼルで生まれ,1783年に没した数学者・科学者です.その3世代くらい前に当たるガリレオ(1564-1642)は,「自然という書物は数学の言葉で書かれている」という言葉を残し,自然法則を数学の言葉で表現することにより,あらゆる自然現象は数学的に導くことができるという世界観を呈示しました.このガリレオの世界観・科学観は,依然として現代科学の根底にあります.その次の次の世代に当たるニュートン(1642-1727)は,微分法を発見することでガリレオの主張を実現し,ニュートン力学という理論体系を作り上げて自然を支配する法則を明らかにしました.そのあと登場したオイラーは,ニュートン力学を深めることにも多大な貢献をしました.たとえばガリレオやニュートンが扱ったボールの落下や惑星の軌道といった問題は,ボールと地球,あるいは地球と太陽といった2つのものが力を及ぼし合う運動でしたが,オイラーはたとえば水の流れのように,無数の物体(水の分子)が力を及ぼし合いながら運動するような場合にもニュートン力学を適用する方法を与えました.その偉業は,オイラー・ラグランジュ方程式,オイラーの渦流など,彼の名を冠する多くの用語に印されています.オイラーはまた整数に関する研究においても,驚くべき活躍をしています.現代の用語で述べると,ゼータ関数の特殊値を求め,ゼータ関数のオイラー積表示を発見し,多重ゼータ関数まで考察しています.これらはその後現代に至る研究の方向性を決定づけた,大いなる発見です.そのほかにも,一筆書きの問題,多面体の頂点・辺・面の数に関するオイラー標数,分割数に関する研究など,ありとあらゆる分野で現代につながる大きな礎を築きました.

 このように見てくると,オイラーは雲の上の人のようですが,一方で私はオイラーにとても親密さを感じます.彼の仕事の1つ1つは,結果だけを見ると感嘆するばかりですが,その発見に至った道筋が実に自然で,わかりやすいからです.彼は虚空から真理をひょいとつかんできたのではなく,いっぱい計算し,考え,さらに計算し,考え,さらに計算していって,その中に埋まっている真理に気づいたのです.このような数学のやり方は,多くの数学者の理想とするところです.

 さて,オイラーの公式です.これもそのような営みの産物で,級数と複素数という2つの概念がこの発見をもたらしました.本書ではまず級数と複素数について,必要な事柄を準備します.それから,それらをオイラーが操ると,三角関数と指数関数の関係が見事に浮かび上がってくる様子を見てみます.そして後半では,このオイラーの公式が何をもたらしたか,どんな場面でどのように活躍しているか,ということを見ていこうと思います.

 序を終えるに当たって,今まで隠していたわけではありませんが,オイラーの公式をご覧いただきましょう.

左辺にあるのが指数関数,右辺に登場するのが三角関数です.それらが虚数単位√-1を用いることで結びつく,というのがこの公式の意味するところです.それではこの簡素で美しい公式の発見に至る道筋と,この公式がもたらした世界を探っていくことにしましょう.途中少し険しい箇所があるかもしれませんが,そんなときは鉛筆を持ってちょっと手を動かしてみて下さい.そうすれば必ず乗り越えることができて,すばらしい景色が目の前に広がってくるはずです.

著者 原岡喜重(はらおか・よししげ)
一九五七年、北海ど小樽市生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士。現在、熊本大学大学院自然科学研究科(理学部)教授。専門は複素領域における微分方程式・特殊関数・微分代数学。数学には実用性のほかに、憧れをかきたてる何かがあるように思います。その魅力に迫るような研究がしたいと思っています。著書に『超幾何関数』(朝倉書店)、『数学っておもしろい』(日本評論社)、『微分方程式』(数学書房)など。
 
『オイラーの公式がわかる』
数学の至宝を知る

原岡喜重=著

発行年月日:2013/06/20
ページ数:208
シリーズ通巻番号:B1818

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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)