古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン動画版Vol.004 第1回---「TPPで日本は本当にアメリカの言いなりになるのか?」ほか
【目次】

■古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン Vol.056(動画版第4回)
 テキスト書き起こし(2013年4月26日配信)
 ●TPPで日本は本当にアメリカの言いなりになるのか?
 ●ウルグアイラウンドの教訓
 ●TPPお化けの正体
 ●不発だった成長戦略
 ●闘わない「矢」では意味がない
 ●「0増5減」のまやかし

TPPで日本は本当にアメリカの言いなりになるのか?

現代ビジネス編集部(以下Gbiz): みなさん、こんにちは。「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」をいつもご愛読いただきありがとうございます。今回は動画版の第4回になります。古賀さん、よろしくお願いします。

古賀茂明(以下古賀): ハイ! よろしくお願いします!今回はいくつか取り上げたいと思うものがあります。前回の動画版でも触れましたが、1つはTPPです。

Gbiz: 日本の参加が承認されました。

古賀: そうですね。アメリカは議会の承認が必要ですから、まだ完全に承認されてはいないのですが、7月から参加できる可能性が高くなった。そのTPPについて、私がTPP賛成だというと、非常におもしろい反応があるんですよね。それは、「古賀さんは脱原発なのに、どうしてTPPに賛成なんですか」──こういう質問が多いんですよ。

 原発の問題とTPPの問題というのは、直接には結びついていないんですよね。だから、TPP賛成・反対と原発賛成・反対というのは、それぞれ独立した立場があっていいんですが、世の中では脱原発の人はTPPも反対すると、セットで考えるような空気がありますよね。だから、私が脱原発だということはわりとご存知の方が多いので、だから「その古賀さんがなんでTPPに賛成なんだ?」と言われるんです。

 TPPについては、いろいろな報道、あるいはネットでいろいろな方が発信されていますよね。その内容が非常に不確かなものが多い。日本はまだ参加していないので、交渉内容について詳しいことはよくわからない面があるのは確かなんですけれども、賛成する側、反対する側それぞれが必ずしも正確に理解しないまま、感情論も含めて議論が進んでいて、その影響で一般の方が「TPPというのは恐ろしいものだ」という印象を持たれているような気がするんですね。

Gbiz: 「黒船来襲」みたいな感じですよね。

古賀: はい。前提としていくつかあるんです。

 一つは、日本はアメリカの言いなりになっていて、アメリカが参加している交渉ではいつも負けるんだと、アメリカの言いなりになるんだという議論がよく聞かれますよね。特に、沖縄の基地問題などを見ていると、私自身も確かにそういう印象を受けます。「勝ち・負け」というのはあまり正確ではないかもしれないですけど、結果として沖縄にあれだけの基地が置かれていて、しかもいっぺん結んでしまった「日米地位協定」という治外法権的な約束をなかなか直せない状況を見ていると、なるほど、そうだなという感じもします。

 ただ、こと経済交渉について言えば――経済に対するいろいろな考え方、哲学みたいなものが国によって違います。日本の場合は、あまり哲学はないような感じもするんですが――アメリカは「市場経済」重視の姿勢を基本にして押してくるんだけど、一方で国益もありますから、けっこう都合のいいこともときどき言ってきます。本来の原則からすれば外れたこともいろいろ言ってくるんですね。

 それに対して日本のほうは、あまり原理原則がない。建前は自由貿易主義で、貿易によってずいぶん儲けさせてもらっているんですけど、それが本当に日本の基本的な姿勢になっているかというと、必ずしもそうではないんです。どちらかというと、「国益を守れ」というときには必ず、自由貿易に反対することを主張する。自由化をしないことが国益を守ることだと。

Gbiz: 特に、農業はそんな感じですね。

古賀: ええ。それで、過去のいくつかの経済交渉の事例を見てみると、日本は本当にアメリカにやられちゃったのかというと、私は必ずしもそうではないと思っていまして。

Gbiz: 古賀さんご自身、いろいろな国際交渉に関わってこられた。

古賀: そうですね。私がいちばん深く関わったのは、「日米構造協議」という1989~90年に行われた交渉なんですけれども、このときはアメリカにいろんなことを言われました。日本の経済に関してアメリカは徹底的に調べ上げて、問題だと思うものを全部挙げてきたという感じですね。もちろん、まったく関心のないことについては言わなかったかもしれませんが、必ずしもすぐに自らの利益につながるわけではないのに、なにかおかしいなと思うことについてはいろいろ言ってきたんですよ。

 例えば――日本の役所は大反対するけど、私はアメリカ側の言い分に「なるほど、そうだな」と思ったこともあるんですが――政府には審議会がいろいろとあって、さまざまなことを議論していますね。審議会、あるいは研究会。

Gbiz: 学者や有識者を呼んで。

古賀: そうですね。それに対して、アメリカが問題だと言ってきたんです。なにが問題かというと、まず、人選が偏っているんじゃないかと。それから、会議が公開されていないと。

Gbiz: なるほど、非公開だと。

古賀: そもそも会議自体が公開されていないし、議事録もほとんど公開されていない。これはおかしい、と。要するに、審議会という第三者が議論して立派な結論が出ましたということを隠れ蓑にして、政府の都合のいいように歪んだ政策をやっているんじゃないかというのが、アメリカ側の指摘でした。で、私は役所のなかにいて、確かにそのとおりだなと思った。

Gbiz: 実際にそういう傾向はあった。

古賀: ええ。そう思っていた。たまたま私は、交渉でその関連を担当していたので、もうどんどんオープンにしようとしたんですね。そうすると、通産省(現・経産省)のなかからものすごく強い反対が出てくるし、通産省以外の役所ではまったく相手にしないというぐらい猛烈な反対が起こったんです。それでも、アメリカは強力に主張してきたので、審議会の議事概要ぐらいはオープンにしましょうということで妥協したんですけど、こんなの今から考えれば当たり前のことですよね。もっとも、今でも「規制改革会議」なんかは公開されていないんですよ。

Gbiz: 公開せよという声があったのに、非公開になってしまいましたね。

古賀: 会議が終わってから一応、議事録は出すようですけれど、まだ公開されていない。私は、あのときアメリカがもっと強く言ってくれれば、審議会公開法をつくれたのにな、つくっておけばよかったなぐらいの気持ちでいます。また、行政指導なんかは見えないところでいろんなことをやっていて、当時はカルテルの指導みたいなことまで行われていた。

Gbiz: あくまでも業界を守るという名目なんでしょうけどね。

古賀: アメリカは、そういう指導を全部オープンにしろとか、必ず文書で残さなければいけないとか、行政手続法をつくれとか、アメリカならではの要求を出してきたんですけど、日本はほとんど全部拒否しました。結果的に後から行政手続法とか情報公開の法律とか、いろいろ出てきましたが、アメリカが言ってきたことを10年遅れぐらいでやっていくというようなことが多かった。ですから、アメリカ側の要求は常におかしいということではなく、むしろ言っていることは正しいのに日本が蹴飛ばしてきたということのほうが多かったように思います。相手の言っていることのほうが理屈が通っているのに、日本が呑まないということはかなり多かった。

Gbiz: そうなんですか。