「パーソナル・デモクラシー・フォーラム」レポート ~市民と政治・行政をつなぐシビック・テクノロジー業界の可能性

「パーソナル・デモクラシー・フォーラム」のホームページより(41名のスピーカーによるプレゼンテーションの動画アーカイブは全て閲覧可能)

前回の記事でも紹介したように、テクノロジーと政治・行政に関する国際会議「パーソナル・デモクラシー・フォーラム(Personal Democracy Forum : 以下PDF)」(6月6-7日 @ニューヨーク) に、私も先日、参加する機会を得ました。今回は現地で実際に感じたカンファレンスの様子、強く印象に残ったことなどをレポートしたいと思います。

10周年を迎え、「シビック・テクノロジー業界」の必須イベントに

 ワシントン・スクエア公園の真南にあるニューヨーク大学のホールには、朝から500人以上の参加者が集まり、熱気あふれる様子で会議がスタートしました。過去に何度も参加しているリピーターも多く、また、この「シビック・テクノロジー(civic technology)」セクター(業界)事体が新しく、エッジの効いた「同志意識」の強い人が多いためか、会場のあちこちでネットワーキングが活発に行われていました。

 今回、PDFに参加して改めて強く感じたことの一つは、この「シビック・テクノロジー(civic technology)」というキーワードで語られる「業界」が、過去数年の間に急速に形成されつつあり、「ガバメント2.0」「オープン・ガバメント」「オープン・データ」などのキーワードで語られているムーブメントも広く含む形で、大きな盛り上がりを見せつつある、ということでした。

 先の大統領選挙の際にSNSやビッグデータ分析が活用された話は、すでに日本でもニュースとして取り上げられ、多くの人に知られています。オープン・ガバメント、オープン・データという言葉も、安倍政権の成長戦略の中核に据えられ、先端的な地方自治体はすでに様々な取り組みを進めており、日本でもこうした機運が盛り上がりつつあることは認識していました。ただ、PDFの会場に身をおくことで、一つひとつのキーワードをさらに大きなカテゴリーで括るかのような「シビック・テクノロジー業界」という生態系の成熟ぶりに大きな感銘を受けました。

 例えば、メインホールでのプレゼンテーションのスピーカー(合計41名)が扱う多種多様なテーマ・トピックは、ついていくのが精一杯な程でしたが、まるで「未来を見ているような感覚」すら覚える素晴らしい体験でした。(その他、約80名のパネリストが参加する分科会も熱を帯びたものでした)。

 主要なトピックは以下のようなものでした(プログラム内容はこちらで閲覧できます)。

「キャンペーンをするものの心得」
「テック業界が抱える男女格差問題」
「大統領選挙におけるビッグデータ活用」
「オンライン署名サイトがもたらす次世代型『人』中心のムーブメントについて」
「プログラミング教育の重要性」
「フォー・プロフィット・シビック・テック・スタートアップ企業がいかに矛盾しないか」
「政治の世界が知っておくべきテック業界」
「アフリカ、ウクライナ、ドイツなどを含むグローバルなシビック・テック・トレンド」
「プライバシーとサイバーセキュリティ」
「ウェブ上でバイラルを起こすための秘訣とは」
「医療分野でのテクノロジー・ビッグデータ活用」・・・

 会場には「シビック・テクノロジー業界」のスタートアップ企業・団体に資金を提供する財団・投資会社・中間支援団体、具体的には、Knight Foundation(ナイト財団)、Omidyar Network(オミィディア・ネットワーク)、Sunlight Foundation(サンライト財団)などが参加し、シビック・スタートアップ企業や団体とネットワーキングを繰り広げ、コラボレーションの機会を模索している様子を見ることができました。

 2006年に設立されたアメリカ政府の透明性向上に取り組む非営利団体・サンライト財団は、これまでも「オープン・ガバメント」「オープン・データ」のムーブメントに大きな役割を果たしてきた団体です。下の紹介動画を見ていただけば分かる通り、行政と市民とのつながりを、テクノロジーを最大限に活用することで促進しています。

 最近では「シビック・キャピタリズム」とでもいうべき市民参画・行政サービス改善のための投資や助成案件が数多く成立していることもあり、セクターが生成されるダイナミズムを感じることができました。例えば、オンライン署名サイトで有名な「Change.org」にはこの5月、1,500万ドル(約15億円)もの資金がオメディア・ネットワークから提供され、大きなニュースとなりました。

 また、地方の行政機関にエンジニアやウェブ技術者をフェローとして派遣するプログラムなどを運営する「コード・フォー・アメリカ(Code for America)」にも、今年の2月、ナイト財団から500万ドル(約5億円)の助成金が提供されました。まだプログラムを開始してから3年しか経っていないのに、すでに大きな存在感を示す注目の非営利団体の一つになっています。

 コード・フォー・アメリカに提供された助成金は、フェローシップ以外にも、2012年から始められたアクセレレータープログラムに活用されることになっています。シリコンバレーにあるテック系スタートアップを支援する「Yコンビネーター」にも似た、新しいシビック・スタートアップの育成を加速する取り組みに拍車がかかっています。

 このアクセレレータープログラムに初の参加企業として選ばれた、オンライン上で行政サービスへのアイディアを集めるクラウドソーシングサービス、「MindMixer」という企業があります。実はこの会社、今年の春には計620万ドルもの資金をベンチャーキャピタルから獲得しており、アメリカでこうしたエコシステムが成熟しつつあることを顕著に感じます。

以前にも本コラムで取り上げたことがありますが、市民からの行政機関へのリクエストをウェブやスマートフォン経由でレポートすることを可能にする「SeeClickFix (シー・クリック・フィックス)」も、オメディア・ネットワークなどから150万ドルの資金調達に成功しています。

●「The Riches Of Civic Capitalism TechCrunch (2013年5月30日)
●「In San Francisco, Accelerating a "Civic Technology" Industry」 TechPresident (2013年5月13日)

 また、行政機関からはニューヨーク市会計監査官が参加し、ニューヨーク市の財務状況を透明化する「CheckbookNYC」というサービスを今後オープンソース化することを発表しました。これにより、年間700億ドルものニューヨーク市の収益、経費、発注先、予算のリアルタイムな情報を誰でも自由にダウンロードできるようになり、ウェブアプリ開発などに役立てることが可能になります。こういったことが、この会場で発表されることの意義も大きいと感じました。

●「Checkbook NYC Open-Sourced at Persona Democracy Forum 2013, PRNewswire (2013年6月12日)

 ニューヨーク市のチーフ・デジタル・オフィサーであるレイチェル・ハウト(Rachel Haot)氏もパネリストとして登壇し、ホワイトハウスのデジタル戦略担当者らと今後の政策のあるべき姿について意見を交わしていました。

 以上、あくまで概要ではありますが、会場の雰囲気をお伝えしました。「シビック・テクノロジー」という新しいセクターのダイナミックなエコシステム、そのほんの入り口あたりを紹介したに過ぎないような気がします。とはいえ、まだまだ日本の文脈では共通言語を持ち得ない、想像もできない、数多くのプレイヤー、コンセプト、スケールに触れることができたことが、今回のPDFに参加何よりの収穫でした。

 今後、日本でも話題になっていくであろう「オープン・データ」の機運に注目しつつ、海外で急速に飛躍・進化すると思われる「シビック・テクノロジー」のトレンドも継続的に追いかけていきたいと思います。

※なお、6月14日に「スクー(Schoo)」というオンライン無料授業動画サービスサイトで、PDFなどについて60分程度の報告をさせていただきました。アーカイブ動画・スライド資料の閲覧が可能です。興味のある方は、ぜひ、こちらも併せてご覧ください。

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