野球
二宮清純「珠玉で豪胆 尾崎行雄の野球人生」

 さる6月13日に他界した元東映の尾崎行雄さんにまつわる剛球伝説は、それこそ星の数ほどあります。そのうちの、ほんの一部を紹介しましょう。

 浪商高の1年後輩にあたる高田繁さん(横浜DeNA・GM)は現役時代、堀内恒夫さん、山口高志さん、鈴木孝政さん、小松辰雄さん、江川卓さんなど数多くの怪腕、剛腕のストレートを見てきました。その中でも「ナンバーワンは尾崎さん」と言うのです。

「とにかくボールの質が違うんです。皆、速いんだけど、そんなに怖くはなかった。ところが尾崎さんのボールは手元でグォーッとくる。あんな真っすぐを投げられたのは、後にも先にも尾崎さんだけです」

「打球が飛んでこない」

 阪急で“いぶし銀”の2番バッターとして活躍した大熊忠義さんは尾崎さんの浪商の1年先輩です。高校時代はサードを守っていました。
「守っていても、滅多にボールが飛んでくることはありませんでした」
 苦笑を浮かべて言い、こう続けました。

「サードを守っていて、これほどつまらんピッチャーはいなかった。バッターを三振にとった後、キャッチャーから内野にボールが回ってくる。ボールに触れる機会というたら、それくらいしかありませんでしたよ。

 もちろん尾崎の剛速球を引っ張り切れる高校生なんていなかった。ただひとり、後に東映に行く法政二高の是久幸彦にベース横を抜かれたことがあります。これ1回だけ。びっくりしたので、これだけは覚えているんです」