「講座: ビジネスに役立つ世界経済」
【第8回】 ~成長ステージが変わった中国~

〔PHOTO〕gettyimages

 今後の世界経済の行方を考える上で、中国経済の状況は極めて重要であることは言うまでもない。このところ、ドイツやフランスの閣僚が、自国やユーロ圏の景気が、4-6月期に底打ちするとの見方を相次いで出してきているが、その根拠は輸出の回復であるようだ。

 ドイツの4月の貿易統計では、輸出金額が前年比で+8.5%増加、フランスでは同+4.0%と、これまでの減少傾向から拡大に転じている。これは、4月の中国経済の改善とほぼ軌を一にしている感がある。

 例えば、中国の4月の鉱工業生産指数は、前年比+9.3%と拡大傾向にあったし、中国の経済指標で最も信頼がおけるといわれている電力消費量も、前年比で+6.8%と4月は大幅な改善を記録した。このまま、中国経済が回復を続ければ、ユーロ圏諸国の経済も中国向けを中心とする輸出拡大を梃子に、危機を脱することができるかもしれない。だが、残念ながら、淡い期待に終わってしまうのではないかというのが筆者の見方である。

 5月分の中国の経済指標をみると、4月から早くも回復テンポの鈍化が見てとれる。代表的な指標は、HSBCが発表している、中国の製造業のPMI(企業の景況観指数)である。5月中国製造業PMIは49.6で、景気判断の分かれ目となる50を下回った。50を下回るのは、昨年10月以来である。

 PMIは、その数字の大きさというよりも、50を超えているか否かが重要な意味を持つので、49.6という5月の結果は、4月の50.4からわずか0.8ptしか低下していないが、50.4の状況の景況観と49.6の状況の景況観とでは、雲泥の差がある。5月は、輸出金額の伸び率も前年比でわずか1%に止まっている。このように、5月の中国の月次経済指標を見る限り、ドイツやフランスの閣僚の先行き楽観見通しは、幻想に終わりそうな状況だ。

 このような月次経済指標の動きを追っていない人達の中には、いまだに中国経済の実質で10%超の成長の復活を待ち望んでいる人が多い。彼らの大多数が、中国は、政府が大規模公共投資を実施すれば、すぐに実質10%超の高成長に戻ることが可能であると考えているようだが、その期待はもろくも打ち砕かれる可能性の方が高いと考える。

現在の中国経済は、1970年代前半の日本と相似している

 自国通貨建ての「1人当たり実質GDP」の動きを、かつての日本(1965年前後の高度経済成長時代の日本)と現地通貨建てベースで指数化し、比較してみると、現在の中国経済は、日本の経験でいえば、1973~1975年程度の状況に似ていることがわかる(1人当たりGDPの比較は、ドル換算ベースで行われることが多いが、中国の場合、為替レートの操作が行われているため、ドル換算ベースの数字で1人当たりGDPを比較するのは、ミスリーディングであると思われる。よって、ある時点を100とした指数などを比較するのがよい)。

 すなわち、現在の中国は、日本の戦後史との比較でいえば、第一次オイルショックを終えたばかりの状況に近いことになる。1973~1975年当時の日本は、高度経済成長期が終焉し、80年代前半の安定成長期への移行過程にあった。1973年には、それまで1ドル=308円程度で事実上固定されていた為替レート(円ドルレート)が、変動相場制に移行したばかりであった。

 貿易構造も安価な労働力を背景に、安価な製品を大量に輸出して外貨を稼ぐ「薄利多売」型成長モデルから、品質の良い高価な製品を多種類輸出する安定成長モデルへの転換期であった。このような「構造転換」の大きな理由は、人口そのものの減少というよりは、むしろ、農村部から都市部への労働力の移動が、ほぼ止まった点にあった。

 これは、賃金の増加や労働福祉の充実によって、企業にとっての雇用コストが飛躍的に拡大し、それが収益を圧迫し始めたことを意味した。このように、労働分配率が上昇し、企業マージンの低下を通じて企業収益を圧迫する状況では、多くの企業が、自社の事業の先行きに対して楽観できなくなり、設備や労働への投資を控え始めるようになった。その結果が、高度経済成長の終焉であった。

 これとほぼ同様の状況が、中国経済に当てはまることは、日々の中国関連のニュースフローを追いかけると明らかであろう。中国は、安価な労働力(大部分が農村部から都市部へ流入してきた労働者)を利用して、廉価製品を海外に大量販売するという高度成長モデルを維持できなくなったのである。

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