官々愕々
安倍総理は経済音痴or詐欺師?

 アベノミクス第三の矢として注目を集めた成長戦略。その内容は、予想通り、飛距離不足で的外れなものとなった。あまりのお粗末さに市場もはっきりNOをつきつけ、株価は暴落後乱高下を繰り返している。

 慌てた安倍総理は、秋に追加の成長戦略を出すと発表した。「今回は中身がないけど、秋になればもっといい話があるよ」ということなのだが、市場からは、やるなら「今でしょ!」という流行語が聞こえてきそうだ。

 当初、三回に分けて成長戦略を発表する時、何故か安倍氏は嬉しそうに、時には誇らしげに見えた。市場では、「あんなに中身がないのに何故そんな顔ができたのか?」「実は、安倍総理は、経済音痴なのでは?」という疑念が生じた。

 さらに、安倍氏は、企業の所得と個人の所得の両方が含まれている一人当たり国民総所得を150万円増やすとした骨太の方針の内容を、個人の給料が増える額だと勘違いして、
「10年間で皆さんの年収は150万円増えます」と言ってしまった。市場関係者はあきれて、「本当に知らないのか、それともとんでもない詐欺師なのか」と話題になったという。

 その後、安倍氏が汚名返上のために繰り出したのが「思い切った設備投資減税」。「年末の税制改正まで待たず秋に決める。異例のスピードで思い切った措置を出す」などと宣伝しているが、たかだか2ヵ月か3ヵ月早いというだけのこと。また、「減税」を強調しているが、市場や経済界が求めている法人税減税の要求は無視している。決して胸を張る内容ではないのだが、安倍氏はそこを理解していないかのようだ。官僚たちに騙されているとしか思えない。

 官僚と族議員たちの思惑を解説してみよう。

 設備投資減税をするためには、対象となる産業分野、投資の目的、設備の種類など様々な条件と減税の方法を細かく設定する。これらによって、業種や企業ごとに設備投資減税の恩恵が受けられるかどうかが決まるのだが、これが全て、各省の官僚と族議員、財務省と自民党税制調査会メンバーの交渉で決まる。「秋にやります」と今発表しておけば、様々な業界団体や地元の経済界などから自民党議員に陳情が来る。選挙前だから、パーティー券を売ったり、選挙での協力を求めるのには都合がいい。

 それでは、この減税で設備投資が増えるのかというと、どうも疑わしいというのがこれまでの経験だ。筆者も長く産業政策に携わり、様々な設備投資減税を見てきたが、残念ながら、官僚の関心は、設備投資が増えるかどうかではなく、業界と族議員に恩を売り、その結果として、業界団体やその傘下の企業に天下り先を増やして自分たちの生活保障につなげたいということでしかなかった。だからこそ、官僚達は、設備投資減税などのいわゆる「租税特別措置」に熱心なのだ。

 一方、彼らは、法人税の引き下げにはあまり熱心ではない。その理由は極めて簡単だ。法人税の税率を下げるだけだと、官僚の恣意的な裁量が働く余地がなく、業界団体に対して恩を売る手段にならないからである。

 官僚たちに搦め捕られた安倍政権の成長戦略。市場も選挙後までは様子見となって、株価は下げ止まるかもしれない。しかし、秋になれば、法人税減税はどうなるのかと催促されるだろう。そこで慌てて、また「改革に終わりはない。年末までに検討する」と言うのだろうか。このままでは、農協、医師会、電力会社などの嫌がる改革の本丸に議論が及ぶのは先のまた先。第三の矢は、いつまでたっても的に届くことはなさそうだ。

『週刊現代』2013年6月29日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。