スポーツ

二宮清純レポート 楽天・捕手嶋基宏 野球センスは平凡それでもトップになれる

2013年06月22日(土) 週刊現代
週刊現代

 場内は水を打ったように静まり返った。やがて嗚咽が漏れた。感動のスピーチは、こう結ばれた。

「今、スポーツの域を超えて野球の真価が問われていると思います。見せましょう、野球の底力を。見せましょう、野球選手の底力を。見せましょう、野球ファンの底力を。ともに頑張ろう東北! 支え合おうニッポン! 僕たちも野球の底力を信じて精一杯プレーします。被災地の支援、よろしくお願いします」

 被災地への思いがバットに乗り移ったのが、4月12日、千葉でのロッテとの開幕戦だった。

 1対1と同点で迎えた7回表、2死一、三塁の場面で嶋のバットが火を噴いた。試合を決める値千金の3ランがレフトスタンドに突き刺さった。まるでシナリオでもあるかのような逆転劇だった。

「東北の皆さんと一緒に戦っているので、その気持ちがあの打球に乗ったのだと思います」

 またしても嶋は楽天ファンを、そして野球ファンを泣かせた。この一打はファン投票で「ジョージア魂」賞(毎年ハッスルプレーに送られる)にも選ばれた。

 だが、この年、嶋は深刻な打撃不振に見舞われる。自己最多の129試合に出場したものの、打率は2割2分4厘と振るわなかった。「オマエの底力を見せろ」とヤジられた。

 前年にはキャリアハイの3割1分5厘をマークし、初のベストナイン、ゴールデングラブ賞に輝いた男がスランプの淵でのたうち回った。気がつくと円形脱毛症になっていた。

 不運は続く。昨年5月13日のオリックス戦では右手にファウルチップを受け、親指の付け根を骨折した。その影響で、この年の盗塁阻止率はリーグワーストの1割8分2厘に終わった。

「優等生」と呼ばれて

 これが原因で、今春の第3回WBCでの日本代表入りも消えてしまった。裏事情を侍ジャパンの野手総合コーチだった梨田が語る。

「彼は代表候補に挙がっていました。ところが秋に親善試合のキューバ戦に呼んだところ、スローイングの際のボールの回転が良くない。それで"どうしたんだ?"と聞くと、"骨折の影響なんです"と。これさえなければ、おそらく代表入りしていたはずです」

 WBC出場はかなわなかったが、昨年12月には、それ以上の大役が回ってきた。労組・日本プロ野球選手会の会長に就任したのだ。前会長・新井貴浩(阪神)の、たっての頼みだった。

 苦笑を浮かべて、嶋が会長就任の舞台裏を明かす。

previous page
6
nextpage


Special Feature
最新号のご紹介