二宮清純レポート 楽天・捕手嶋基宏 野球センスは平凡それでもトップになれる

「何を言ってんだ、この人」—入団当初、彼は野村克也元監督からの難解な指導に、こう思っていた。しかしいま、「意味がやっとわかってきた」と言う。名捕手あるところに覇権あり。楽天の快進撃の裏には、間違いなくこの男の成長がある。

チャンスで必ず打つ男

 これは実力なのか、入梅の珍事なのか—。

 3年連続Bクラスの東北楽天が6日現在、12勝6敗で交流戦首位に立っている。貯金も7たまり、目下、パ・リーグの2位だ。

 本拠地のKスタ宮城で行われた3日の中日戦では、延長11回裏、1死満塁のチャンスで8番・嶋基宏がフルカウントからの9球目をセンター前に弾き返し、2対1で今季初のサヨナラ勝ちを収めた。

 お立ち台でヒーローはこう語り、スタンドの笑いを誘った。

「本当は1対0で勝って皆さんが8時半くらいに帰って、おいしいお酒を飲めるところでした。1時間遅くなってしまったので気をつけて帰って、また明日から仕事頑張ってください!」

 それにしても今季の嶋は勝負強い。打率はリーグ16位の3割ちょうどで、得点圏打率はリーグ5位の3割8分8厘だ。

 好調の理由はどこにあるのか。昨季、楽天の一軍打撃コーチを務め、現在は二軍監督のデーブこと大久保博元に聞いた。

「今年の嶋はバットのヘッドが立っている。アイツが悪い時は右に打とうという意識が強すぎてヘッドが寝てしまうんです。そうなると右方向へ打ってもファウルが多くなる。

 僕が打撃コーチをしている時、この点は口うるさく言いました。右におっつけるにしても、ヘッドが寝たままではバットに角度がつかない。ヘッドが下がって角度がつかなければ強い打球は生まれないんだよ、と……」

 もちろん、チームへの貢献はバットだけではない。2年前まで北海道日本ハムで指揮を執っていた梨田昌孝は「嶋のキャッチャーとしての成長が、ここまでの楽天の好成績に結びついている」と明言する。

「今年の楽天は1点差ゲームに強い(8勝4敗)。総得点が233で総失点は231。これで貯金7なのは、いかにチームに一体感があるかということ。

 監督の星野仙一さんは"取りにいくゲーム"と"捨ててもいいゲーム"を決めている。このベンチの意図を一番、理解しているのが嶋。星野さんも内心では相当、頼りにしていると思いますよ」

 '05年に新規参入を果たした楽天は、これまで一度も優勝がない。知将・野村克也が率いていた'09年の2位が最高で、クライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージまで進出した。