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特別対談 保阪正康×福田和也
金持ちになることは幸福なのか、不幸なのか

保阪 日本の大金持ちというと、どうしても松下幸之助(パナソニック創業者)や本田宗一郎(本田技研工業創業者)といった、名だたる大企業の創業者を思い起こしますね。しかし、昭和21年から25年くらいまで、つまり戦後の混乱期の高額所得者リストを見ると、ヤミ屋なども多い。実業家といっても、軍用品の横流しで築いた財産で会社を興した人物もいたんです。

福田 そうでしょうね。

保阪 当時、GHQの要請を受けた警察が、どこの部隊の誰がどういう軍用品を流したのかを調べていて、そのリストを私の友人が入手したので、見せてもらったことがあります。すると、名前は伏せますが、たしかに誰でも知っているような中堅企業の創業者の名前がありました。

福田 当時は企業だけでなく、政治もよくわからないカネで回っていましたね。

保阪 昔の政治家はそもそも「政治は人のカネでやるもの。自分のカネを使う奴はダメだ」という意識があった。カモにされたのは、藤山コンツェルンの二代目として長者番付に何度も登場した藤山愛一郎でしょう。岸信介(元首相)にいいように利用されて、後に自らも政治家になりました。以前、息子の藤山覚一郎(大日本製糖元社長)に話を聞いたことがありますが、藤山派の連中が料亭で飲み食いするツケは全部、愛一郎に回されたそうです。なかには乱暴狼藉を働く政治家もいて、料亭の高い襖を壊してしまい、何千万円もの請求書が愛一郎に回されたこともあったといいます。

利用されて騙される

福田 カネを出してやらないと、派閥がまとまらなかったんでしょうね。

保阪 それなのに、総裁選に藤山が立候補しても、藤山派の連中は投票してくれなかったとか(笑)。評論家の大宅壮一は「絹のハンカチが雑巾になった」と評していたように、藤山はいいようにたかられた。金持ちだからといっても、幸福とは限らないようです。

福田 藤山は絵画の収集家でもあったんですが、いろんな人が寄ってきて、気の毒なことに偽物をつかまされることも少なくなかった。みんなに金持ちだと知られているのは大変ですよね。

保阪 福田さんは絵画に詳しいですが、貴重な作品を持っている資産家というと、誰が思い浮かびますか。

福田 山崎種二でしょうね。

保阪 山種証券の創業者ですね。