「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第31回】
「上司に嫌われているから、自分の企画が通らない」と考える人々

【第30回】はこちらをご覧ください。

職場の同僚たちに大きな不快感を与えた

 最近、言動が気になって仕方がない1人の男がいる。

 それは2ヵ月近く前、僕の職場に新たに着任してきたS君という20代後半のディレクターだ。体格は中肉中背で、普段は誰とでもよく喋る印象がある。

 S君は、首都圏の有名私立大学を卒業してから、ずっとフリーランスのディレクターとして、いくつかのニュース番組を制作してきた。そして今年の春、僕が働くテレビ局に入ってきたのである。

 S君はいつも、さかんに貧乏ゆすりをしながらあちこちに電話を入れ、要領よく仕事を進めているように見えた。おそらく同僚たちは最初のうち、S君に対し、他のディレクターととりたてて変わりがないという印象を持っていただろう。

 しかし僕は、あるときから、S君のことが気になって仕方がなくなった。それは、彼の言動が、ASD(自閉症スペクトラム障害)を抱える息子の言動、そして、僕の言動(特に昔の僕の言動)によく似ていることを発見してしまったからだ。

 その傾向は、中でも、職場で「自分の思い通りにならない状況」に陥ったときに顕著だった。S君は、事態が自分の想定と異なったものになると、必ず顔色を変え、汗をかき、身体が動かなくなり、要はパニックに陥ったような反応を示すのだった。まさに息子や僕とそっくりで、そういう場合の彼の言動を目の当たりにするたびに、僕は内心、「このSという男は、俺たち親子と同じタイプの人間に違いない」という確信を深めていった。

 もちろん、S君がASDを抱えているというのは、本人から直接聞いたわけではないので断定はできない。しかし僕にとって、今まで「この人は発達障害に違いない」と推測して、それが間違っていたことは、少なくとも自ら把握している限り、一度もなかった。

 職場では、周囲の同僚たちはともかく、僕自身はS君の言動に戸惑うことはあっても、不快になったことはほとんどない。それは、僕自身がASDを抱えていることや、日々、息子のASD特有の言動を目の当たりにしていることと無関係ではないと思う。

 ただ、S君が職場の同僚たち(正確に言えば、同僚のうち、発達障害を抱えていない人たち)に大きな不快感を与えた様子を目の当たりにしたとき、僕は、ASDを持つ人間が社会人として組織で生きていくことの難しさを改めて強烈に思い知らされた。同時に、息子の将来に改めて不安を募らせ、暗然とした気持ちにならざるを得なかった。