二宮清純レポート 横浜DeNA・内野手中村紀洋
嫌われても、笑われても自分の道を歩いてきた

「巨人の長嶋・松井」が国民の宝と認められた日、彼も静かに歴史に名を刻んだ。いうなればどこにも属さない男だ。日米6球団を渡り歩き、クビも2度経験した。嫌われても、「いらない」と言われても、彼は野球に呼び戻される。しぶとい男、その矜持。

カネでは動かない

 5月5日のこどもの日、東京ドームでは巨人・長嶋茂雄終身名誉監督と、巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜の国民栄誉賞授与式が催された。

 横浜DeNAの中村紀洋がナゴヤドームで日本プロ野球通算2000本安打を達成したのは、その約4時間後だった。

 6対4とDeNAが逆転した8回表、1死一、二塁の場面で中日・中田賢一のシュート系のボールを左中間に運んだ。ベテランらしい技ありの一打だった。

「ランナーがいたのでゴロを打たせにくるか、それとも初球でストライクを取ったスライダーでくるか……。ピッチャーが投げる瞬間まで悩んだんですが、ちょっと中に入ってきたので、うまくとらえられた。会心の一打でした」

 だが、翌日のスポーツ紙の1面は、ほぼ揃ってミスターと松井。「背番号96」の安倍晋三首相の姿もある。中村の記事はというと、繰っても繰っても出てこない。ある新聞は7面、ある新聞は8面……。

 中村と松井。不意に11年前の冬のことを思い出した。二人は揃ってFA宣言し、中村はメッツ、松井はヤンキースと交渉の場を持った。

 野茂英雄が開拓し、イチローや佐々木主浩が脚光を浴びていた21世紀初頭のメジャーリーグ。関係者のある一言が中村の心を動かした。

「まだ日本人で内野手の成功者はいない」

 それまで是が非でもメジャーリーグでやりたい思いがあったわけではない。野球ができるのなら、どこでも同じという気持ちのほうが強かった。

「でも、内野手(の挑戦)が初めてというのなら、やってやろうやないかと。急に行ってみたくなったんです」

 メッツが中村に示した条件は3年総額1300万ドル(当時のレートで約15億7300万円)。ヤンキースが松井と結んだ3年総額2100万ドル(同・約25億4100万円)に比べれば落ちるものの、それでも破格の金額だった。

 松井がピンストライプのユニホームに袖を通したのを尻目に、中村はメッツを蹴る。正式契約前にメッツが公式サイトで入団合意と公表したのが、その理由だった。

「自分は礼儀とか道筋を大切にする人間。ルール違反する球団とは契約できない」