野球
二宮清純「田淵幸一、“頭部死球”の産物」

「どたま(頭)いったれ!」。あるベテラン選手と話した時のことです。数年前、ホームランを2本打った4打席目、相手ベンチから、こんなヤジが飛んだそうです。

「プロやからブツけられるのは覚悟しとる。しかし、頭は勘弁して欲しい。こっちにも家族がおるんやから」。苦笑を浮かべながら、そう話していました。

 頭へのデッドボール……と言えば忘れられないのが1970年8月26日、甲子園で阪神の田淵幸一さんが広島の外木場義郎さんから受けた一球です。

頭部死球への恐怖

 私は小学生でしたが、耳から血をダラダラ流しながらバッターボックスに倒れ込んでいる田淵さんの姿は、未だに脳裡にこびりついています。それが中継だったか、夜のニュースだったかは忘れましたが、白黒テレビゆえ、耳にドス黒いものがはりついているように見えるのです。恐怖のあまり、その夜は一睡もできませんでした。

 ところで、この試合、田淵さんは最初の打席も外木場さんからヒジに死球を受けていました。田淵さんを苦手にしていた外木場さんにすれば、「胸元の厳しいところを突かなければ抑えられない」というプレッシャーがあったと思います。なにしろ、このシーズン、外木場さんは田淵さんに12打数6安打4本塁打とカモにされていたのですから。