脱グローバル論 日本の未来のつくりかた
第1回 グローバル社会VS. 国民国家のゆくえ その3

内田樹 中島岳志 平松邦夫 イケダハヤト 小田嶋隆 高木新平 平川克美

同じく競争社会の弊害に苦しむ韓国

平川 フロンティアがなくなるという話ね、これは僕もずっとそう思ってたんです。ところが、インターネットにはバーチャルな空間というのがあって、これはたとえば金融だとか、ネット空間の中に、どんどんフロンティアを作ってるわけですよ。で、バーチャルなところに作った金融技術の高いところと、そうでない低いところができたわけですけども、その差を利用して金儲けした連中がいるんですよ。それはだんだん詐欺に近づいてきて、その行き詰まった結果が例のリーマン・ショックだったんですね。で、それが終わったと思ったらさ、金融システムの復活のために、また同じことやってんだよ。だから意外と、中島さんが死んでも、グローバル資本主義みたいなものはまだ生き残る気がしますよ(笑)。今後はおそらく、そういうバーチャルなフロンティアを求め続ける人と、地面に足着けてる連中との間の長きにわたる、自覚的に言えば「闘争」というか、綱引きの時代が続くんじゃないかなと思いますけれども。内田君の意見聞かせてよ。

内田 ちょっと違う話になっちゃうけど、このあいだ韓国から高校の先生たちが僕に会いに来たんです。僕の本は韓国で結構翻訳されてて、今6冊出てるんだけども、教育論が韓国では評判が良かったらしい。初めに電話してきてくれた人は「私、あなたの本読んで、泣いて泣いて泣きました」って言うの。泣くほどのことはないと思うんだけど(笑)。このあいだ来た人は、僕の本を読みながら「そうだ、そうだ!」と同意で膝を叩いているうちに膝が痛くなりましたって(笑)。なんでそんなに熱く共感してもらえるのかと思って、話を聞いてみたら、韓国で起きてることも結局、日本と同じだということがわかった。

 学歴主義、格付け、学力の高い人間には多くの報奨を与え、競争から脱落した人間には罰を与える。そういう「人参と鞭」戦略が韓国では日本以上に徹底しているわけなんですけれど、その過程で、子供たちの学力が急速に落ちて、教育崩壊が進行している。日本の報道だと、韓国は学歴主義と競争のおかげで学力がぐんぐん上がって、社会が活性化しているという話になっていますけど、実態はだいぶ違うようです。

『脱グローバル論』
著者=内田樹 中島岳志 平松邦夫 ほか
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 韓国の場合は「選択と集中」で、国際競争力のあるセクターに国民的な資源が集中されている。ヒュンダイとかサムスンとかLGとかいう世界市場でトップシェアをねらえる企業には国家的な支援が行われる。その一方で国際競争力のない分野は放置される。米韓FTA(自由貿易協定)で韓国の農業は崩壊しつつあります。そうやって「勝ち組」と「負け組」への階層分化が加速している。それが子供たちの学習意欲や市民的成熟の同機づけを損なっているんじゃないかと、その先生たちは心配していて、日本と韓国は状況は同じだなと思いました。でも、韓国内には僕みたいな教育論を語る人間がいない。だから翻訳が読まれている。「ニーズがある」というより「サプライがない」んです。

 でも、文部科学省や経済産業省の「グローバル人材育成戦略」を読むと、日本は韓国や中国と経済競争をしているという話になっている。どうやって人件費コストを切り下げ、製品のクオリティを上げたり、イノベーションを行って、隣国に対抗するかという話になっている。でも、これってグローバル資本主義の価値観をそのまま繰り返しているだけなんです。