北方領土交渉の加速化合意
日露首脳会談で共同声明 平和条約交渉を再スタート[外交]

 安倍晋三首相は4月29日、ロシアのプーチン大統領とクレムリンで会談し、北方領土問題で日露双方が「受け入れ可能な解決策」を得るために交渉を加速化することで合意した。停滞していた平和条約交渉を再スタートさせることでも一致。共同声明には両国首脳や閣僚協議の開催などが明記され、日露関係は新局面を迎えたと言える。

 日本は領土問題の「最終決着」を希望するプーチン政権と経済や安保協力をテコに関係強化を図り、4島返還に向けた足がかりとしたい考えだ。しかし北方領土を巡るロシアとの考え方の隔たりは依然大きく、今後の協議は難航が予想される。

 首相「平和条約交渉を再スタートさせ、交渉加速化で合意したのは、大きな会談の成果だ。日露間の最大の懸案であるこの問題に直接取り組み、解決に全力を挙げる」

 大統領「両国にいらない刺激を与えることではなく、プロセスにプラスになるものが重要だ」

 両首脳は共同記者会見で、会談での合意内容を「日露パートナーシップの発展に関する共同声明」として発表。日露両首脳による共同声明は03年1月に小泉純一郎首相(当時)がプーチン氏と会談してまとめた「日露行動計画」以来となった。日本の首相のロシア公式訪問もこの時以来、実に10年ぶりだった。

 両首脳は共同声明で、日露平和条約が締結されていない状態が「異常」との認識で一致した。さらに日露外務省に両首脳がそれぞれ交渉を進めるよう指示し、その成果を首脳会談に上げて議論する方式をとることでも合意した。そのための枠組みとして、両首脳の定期的な相互訪問と両外相の少なくとも年1回の交互訪問を行うことになり、実務的な協議は両外務省の次官級で進める見通しだ。

 安倍政権が北方領土交渉の「再スタートライン」として念頭に置いていたのは、01年に森喜朗首相(当時)がプーチン氏との首脳会談後に署名した「イルクーツク声明」だ。同声明は「国後、択捉を含む4島の帰属問題を解決する」とされた。10年11月のメドベージェフ大統領(当時)の国後島訪問で停滞していた交渉を、同声明まで戻せば、今後打開策を見出せるのではないかという思惑だった。

 昨年ロシア大統領に復帰したプーチン氏は領土問題の解決のあり方を柔道の「引き分け」に例えた。今年2月の森氏との会談では「勝ち負けなしの、双方が受け入れ可能な解決」を意味するとも説明。柔軟さを示したともとれる発言に一時日本側の期待はふくらんだ。

 だが、今回の首脳会談で安倍首相が「イルクーツク声明が平和条約の原点だ」とロシア側に柔軟な対応を求めたのに対し、プーチン氏から明確な発言はなかった。両首脳の共同声明もこの点では「これまでに採択されたすべての文書・合意に基づき進めることで合意した」と微妙な表現にとどまり、同声明では明示されなかった。

 さらにプーチン氏は共同会見で「ロシアの立場は明らかだ」と述べ、4島が第二次世界大戦の結果、ロシア領になったとする従来の立場を示唆。「(4島には)ロシア国民が住んでおり、彼らの生活を考える必要がある」と日本側をけん制した。

 実は日本政府内ではプーチン氏の考え方について、1956年の日ソ共同宣言に明記された平和条約締結後の歯舞、色丹の「2島引き渡し」による決着で一貫しているとの見方が根強い。これに加え、プーチン政権の支持率は1期目に比べて低く、ロシアの国内世論への配慮から「領土問題で簡単に譲れる状況ではない」(日本外務省幹部)のが実情だ。

大統領、2等分返還事例に言及

 その一方、日本政府高官によると、プーチン氏は首脳会談で「大事な話をしないといけない」と自ら領土問題を切り出し、「他国とはこう解決した」と、係争地の面積を2等分して解決した中国、ノルウェーとの国境画定を例に出したという。プーチン氏の意図は不明だが「日本に対する揺さぶり」(外交筋)との見方もある。

 安倍首相は共同会見で「双方の立場に隔たりは大きいが、腰を据えて交渉に当たりたい。首脳の決断なしには問題は解決しない」と強調。日本としてはプーチン氏の「政治決断」に活路を見いだすしかなく、首相は定期協議を通じてプーチン氏との個人的な信頼関係を一層深め、事態の打開につなげたい意向だ。

 ただ協議が本格化するのは、安倍政権が7月の参院選に勝利し、政権基盤を固めてからになりそうだ。首相は6月に英国・北アイルランドで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議や、9月のロシア・サンクトペテルブルクでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議も、プーチン氏との話し合いの場として活用したい考えだ。

 首相は会談翌日の4月30日、モスクワ市にあるロシア科学アカデミー植物園を訪問。父の故晋太郎外相が外相当時に植えた桜から株分けした苗木を、妻昭恵さんと植樹した。ロシア側の園長らから英語で「平和の木(peace tree)ですね」と話しかけられた首相は、「平和条約(peace treaty)だから」と切り返し、北方領土問題の解決に改めて意欲を示した。首相周辺は、対ソ連外交に尽力した晋太郎氏を念頭に「安倍政権のうちに平和条約を結びたい。そのためにも長期政権にしなければ」と強調する。

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