宮城県・桃浦漁港が認定される
民間企業に開放、震災契機に漁業の構造転換目指す[水産特区]

民間企業の力を借り、カキ養殖再開にこぎつけた宮城県石巻市の桃浦漁港=1月25日

 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた漁業の復活に向け、宮城県が国に申請していた漁業権を民間企業に開放する「水産業復興特区」が認定された。同県石巻市の桃浦漁港を対象に9月の漁業権切り替え後の活用を目指す。地元漁協の猛反発を受け、県の当初の想定より申請時期は大幅に遅れ、対象港も1港にとどまった。それでも、震災から3年目にしての大きな進展だ。旗振り役の村井嘉浩知事は桃浦をモデルケースに「漁協任せ」の漁業からの脱却を図りたい考え。高齢化や後継者不足といった三陸の漁業全体が抱える構造に、水産特区が風穴を開けるきっかけになるか。桃浦の取り組みが注目される。

 漁業法では、一定の水域で養殖などの特定の漁業を一定期間、独占的にできる漁業権が定められている。漁村は昔から近海でアワビやワカメなどを採取し、漁場を割り振ることで漁村を巡る争いを調整してきた慣行がある。この慣行を引き継いだのが漁業権だ。

 現行の漁業権は取得する優先順位が第1位・漁業協同組合▽第2位・地元漁民中心の法人▽第3位・地元漁民7人以上の法人――となっている。この順位に基づき、これまでは地元漁協が独占的に権利を取得してきた。

 水産特区は、被災地のうち、地元漁業者では養殖業の再開が困難な浜で第1~3位の優先順位を撤廃するというもの。漁業技術の有無や他の浜への影響などを基準に知事が審査し、基準に適合すれば法人に漁業権を付与する。

 漁協主体の漁業が中心の三陸の水産業は震災前から先細りの一途をたどっていた。復興の方針を「原形復旧ではなく再構築」と掲げた村井知事は11年5月、震災を発展の契機にしようと復興構想会議で特区構想を提案した。養殖から販売まで一貫して行う「6次産業化」を民間企業の参入で実現し、漁業の近代化を図るのが狙いだ。

 特区活用に名乗りを上げたのが津波で甚大な被害を受けた牡鹿半島の小集落である桃浦だ。

桃浦かき生産者合同会社設立

震災後に養殖したカキの試しむきをする漁師=宮城県石巻市桃浦で1月25日

 桃浦は津波で約60戸あった民家がほぼ全滅。地元漁師たちは「過疎高齢化する集落は、民間資本を活用して漁業を再開しなければ存続できない」と判断した。12年8月には特区活用を前提とし、仙台市の水産物専門商社「仙台水産」と共同出資して有限責任会社(LLC)「桃浦かき生産者合同会社」を設立した。

「今まではただ取るだけだった。これからはブランド力を高めるため、利益が上がる販売方法も考えながら漁師も動くんだ」。LLC代表社員の大山勝幸さん(66)はそう意気込む。その一環が春先のカキの出荷だ。

 カキは鍋料理に重宝されるイメージが強く、出荷の最盛期は秋冬だ。ただ、産卵に向けて養分を蓄える春もおいしい。それを知る大山さんが仙台水産に春先の出荷を提案。同社の出向者がバイヤーの目で生育状況を確認し、出荷の方針が決まった。同社の販売網を使って宮城県内スーパーで販売すると、他のカキより高い150グラム当たり398円と強気の価格で飛ぶように売れた。

「販売まで一手に担うLLCのカキは、水揚げ翌日には店頭に並ぶので新鮮なんです」。仙台水産の担当者は好評の理由をそう分析する。漁協を通す共同販売(共販)だと3、4日はかかるという。「共販は差別化も困難で、品質にもムラがあった。春先の出荷で、競争相手の広島産と差別化できた」という。

 しかし特区申請への道のりは平たんではなかった。村井知事は今年3月末、「まさかここまで申請に時間がかかるとは思わなかった」と苦労の一端を打ち明けた。知事は12年9月、同年内に特区を申請すると発表した。だが、地元漁協を説得しても反対意見はなくならなかった。国への申請時期はズルズルと延びた。

 特区による漁業権の開放は、漁場の管理や生産調整の窓口となってきた漁協の存在意義に関わる。桃浦が所属する県漁協石巻地区支所は、漁協を通さずLLCが漁業権を直接得ることの弊害として、▽組合が窓口となり筏数の制限や設置方法を取り決められなくなり、漁場の秩序が維持できない▽密植防止などのために漁場を統合して大区画漁場にして管理したいが、LLCだけ別では実現できなくなる――などと主張する。

 感情的なあつれきも大きい。公平性を重視してきた漁協にとって、他地域との差別化を図って収益を上げようとする特区の発想は相容れない。今年2月には組合員111人が反対署名を県に提出。同支所役員たちは「浜の共同体としての絆が断ち切られる」と主張した。

 結局、県と漁協は折り合いがつかず平行線のまま、県が押し切る形で申請した。

 桃浦は今後、特区を活用して加工品の生産も始め、販売網を広げていく方針だ。ただ、ネックとなるのは労働力。現在の社員は平均60歳代の約20人で、販売網が広がれば生産が追いつかなくなる。大山さんは「利益が上がる販売の仕方を考えながら、必要な労働力を見極めて確保していかないと」と話す。

 労働力確保のためには、住まいの確保など町全体の復興の進み具合も影響する。他の浜から漁師を確保するとなると、漁協の理解も不可欠だろう。

 社員を増やしながら、LLCがブランド化を進め、震災前より発展した形の養殖業を軌道に乗せることができるか。村井知事は「過疎高齢化した桃浦が水産特区で息を吹き返したら、一つのやり方として認めてもらえる。漁業権切り替え後の5年間が勝負だ」と話している。桃浦の挑戦は三陸の漁業振興の試金石だ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら